2022.09.26 政策研究
第30回 多数性(その4):類似団体
分類の尺度? 行政権能・人口・産業構造?
類似団体という分類は、戦後日本において長く使われているものである(7)。類似団体の類型が確立されたのは、1959年である。このときは、都市13類型、町村11類型であった。人口・産業構造による類型としたのは、自治体の財政の様相(財政需要や収入)を決定する重要なポイントであると考えられ、極めて客観的につかみやすいことがある。また、将来的に団体の性格(例えば、山村、漁村、田園都市、工業都市等)という分類による検討を試みる際にも、人口・産業構造を基にした類型設定との整合性がとりやすいと考えられた。さらに、人口・産業構造以外の要素を用いて精緻な類型設定を行うことは、それぞれの類型に属する団体が減少し、統計的有意性が失われることも意識されたという。
その後、人口動態など社会経済諸相の著しい変化により、他の指標などによる類似団体の分類の検討が、1977年度と1999年度に試みられた。しかし、人口・産業構造以外の要素を用いて精緻な類型設定を行うことは、それぞれの類型に属する団体数が減少し、統計的有意性が失われ、また、産業構造より明らかに優れた基準が他になく、さらに、人口・産業構造による類型設定が定着している、などの理由により、いずれも抜本的な変更は見送りとなった。1999年度には、中核市・特例市をその他の都市と区分し、一般市(都市)28区分、町村39区分の類型を設定することになった。
さらに、2005年度にも、市町村合併の進展を受けて、類型設定の基準(人口・産業構造)が有効に機能しているかどうか、より有効な基準があるかどうかについて検討がなされた(8)。その結果、人口については歳入総額、財政力指数いずれも関連しており、市町村を区分するための基準として適切で、分かりやすいとされた。また、産業構造については、人口区分を補完する説明変数として合理的であり、分かりやすいとされた。こうして、引き続き人口・産業構造を採用することとなったのである。ただし、政令指定市、特別区、中核市、特例市のほか、一般市(都市)16区分、町村15区分の類型に整理された。平成の大合併で市町村数が大幅に減少したため、一般市や町村を細かく分類すると、類型ごとの団体数が少なくなるという問題が背後にあった。
このように、行政権能・人口・産業構造による類似団体の分類は続けられ、それ以外の分類はなされていない。近年話題を集めている少子高齢化や多文化社会化の観点からは、高齢人口比率(高齢化率)、子ども人口比率などの人口年齢階層人口・年齢構成、外国人住民比率なども、重要な尺度になりそうではある。あるいは、端的にいって、地域の経済力(域内総生産、財政力指数が代替指標)も重要そうに見えるかもしれないが、これまでの検討では否定されている。これは歳入には影響しても、財政需要には直接には関わりがないのかもしれない。とはいえ、地域の貧困度合いや格差・不平等は、明らかに財政需要に影響すると考えられる。また、集落の限界化や土地の放棄・放置化など縮退社会を前提にすれば、可住地面積やその分散度合い(集約度合い)なども影響しそうではあるが、必ずしも全体を分類する尺度にはならないようである。
(1) 総務省ウェブサイト。総務省トップ>政策>地方行財政>地方公務員制度等>給与・定員等の状況>給与・定員等の調査結果等>類似団体別職員数の状況(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/ruiji-dantai/index.html)。
(2) つまり、職員数の比較に際して、人口数という連続尺度をも同時に使って、標準化されている。類似団体のグループ化で、すでに人口段階が使われているのであれば、理屈上は職員数の実数で比較することもできるはずである。あるいは、そもそも人口1万人当たりの職員数ということで標準化されているのであれば、類似団体内だけではなく、全市区町村での単純比較もありえるかもしれない。しかし、いずれの方法も採用されていないのは、それが、比較の実態として意義が低いと考えられているからである。
(3) 職員数が平均より多いときには削減(行政改革)の要望に、職員数が平均より少ないときには増加(行政需要の充足)の要望に、使うことができる。
(4) 総務省ウェブサイト。総務省トップ>政策>統計情報>地方財政状況調査関係資料>財政状況資料集(https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/jyoukyou_shiryou/h22/setumei.html#ruiji)。
(5) 総務省ウェブサイト。総務省トップ>政策>統計情報>地方財政状況調査関係資料>財政指数表>令和2年度類似団体別市町村財政指数表(https://www.soumu.go.jp/iken/ruiji/ruijiR02.html)。
(6) 総務省ウェブサイト。総務省トップ>政策>地方行財政>地方財政制度>地方公共団体の財政の健全化>健全化判断比率の算定(https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index2.html)。
(7) 第1回「地方公会計の活用のあり方に関する研究会」(2016年4月28日)資料6「財政分析手法の今後の検討課題について」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000417550.pdf)。
(8) 自治総合センター『地方公共団体の財政分析等に関する調査研究会報告書』(2006年3月)。「人口」及び「産業構造」による類型設定を検証するため、類型ごとの歳入総額・財政力指数の平均値などを比較し、類型と適切な相関関係になっているかを検証した。つまり、人口の増加に伴って歳入総額も増加しているか等)の検証である。結果として、人口は歳入総額・財政力指数ともに説明力が高いとされた。また、産業構造は一定の説明力だったという。これに対して、新たな指標候補として考えられた「可住地面積割合」は、一定の説明力にとどまり、また、財政力指数は、当然ながら歳入に対する説明力が低かった。そのため、「人口」及び「産業構造」による類型設定を引き続き適用することになったのである。また、市町村合併の進展などに対応した類型数の見直しとして、類型内に一定以上の母数(10団体程度以上)を確保する観点が採用された。そのため、都市42→16類型、町村45→15類型とした。