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2022.09.12 政策研究

第8回 地域新電力会社はカーボンニュートラル達成の近道か?(1)

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奈良県生駒市では地域新電力を進める市に対して住民監査請求

 地方公共団体は、政策目的の達成のためには、「その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(地方自治法2条14項)とされている。地方公共団体を除く地域内の民間主体がこうした地域循環を形成することは構わないが、地方公共団体が出資をし、かつ、他に比べてコストが高いにもかかわらず、地方公共団体が地域新電力から電気を購入することは、単純にいえば地方自治法2条14項に抵触するという疑惑は拭いきれない。
 理想的には、地域新電力の設立によって、①再生可能エネルギー由来の電力が、従来の化石燃料由来の電力とほぼ同等か安い価格で区域に供給されることで、区域のGHG排出量削減がより進み、②かつ地域に雇用と産業が生まれること、の二つの条件が満たされるなら、歓迎すべきことである。実際には、そう簡単ではない。
 2018年11月には、生駒市の住民が生駒市に対して住民監査請求を行った。生駒市が51%出資して2017年に設立された地域新電力「いこま市民パワー」の電力を随意契約で生駒市の公共施設に供給することで、「周辺市より割高な電力を購入している」ことになってしまったからである。市長に対して監査請求を行った住民は、いこま市民パワーに支払った電気料金の全額に当たる約2億5千万円を市に返還するよう求めた。
 割高になった背景には、地域新電力に警戒心を有する既存の電力会社が安値での提供を申し出ていることにより、地域新電力の電気料金が相対的に割高になった、だから仕方がなかったという議論もあるようだ。
 生駒市監査委員は2019年1月、市が「いこま市民パワー」から優先的に電力を購入する必要があることを認め、「直ちに違法又は不当であるということはできない」と監査請求を退けた。一般競争入札と随意契約の差額分は「政策遂行コスト」という判断を下したという。
 また、同請求「2 対象行為が違法又は不当であることの理由」(3)には、「いこま市民パワーの『地産』及び『再生可能エネルギー』は全発電量の3.6%に過ぎず、96.4%は大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)からの『市外産』かつ『化石燃料エネルギー』の電力を得ており、電力の地産及び再生可能エネルギーの拡大という政策目的を適えていない」とある(4)
 筆者としては、割高な購入も問題であるが、そもそも供給された電力のうち「地産」及び「再生可能エネルギー」割合が全体の3.6%にすぎない点に、驚きを禁じ得ない。先ほどの議論、①再生可能エネルギー由来の電力が、従来の化石燃料由来の電力とほぼ同等か少し安い価格で区域に供給されることで、区域のGHG排出量削減がより進み、②かつ地域に雇用と産業が生まれること、とするならば、いこま市民パワーは、②の要件は満たしているといえなくもないが、①については、ほとんど貢献していないということになりはしないか。
 今後は、当然ながら「地産」かつ「再生可能エネルギー」起源の電力供給が増えることを計画しているとは思うし、生駒市監査委員は、再生可能エネルギー起源の電力供給量が低いことは認めつつも、経営体としての自立を目指すなら、当面は経営基盤を安定化することが必要、という見解を示している。
 みやま市や生駒市などの事例を見るにつけ、本来的なGHG排出量の削減のために、地域新電力が最適の選択といえるのかどうか、議会こそが住民の代表として精査を行う義務があるのではないだろうか。

(1) 東京都環境公社「自治体新電力について」(https://www.tokyo-co2down.jp/wp-content/uploads/2022/02/area_contact02.pdf)10頁。
(2)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/1_2_01.pdf
(3) https://www.sankeibiz.jp/business/news/210803/bsm2108030554004-n1.htm
(4) https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000002/2612/546-4-30-1.pdf

 

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