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2022.09.12 政策研究

第8回 地域新電力会社はカーボンニュートラル達成の近道か?(1)

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地域新電力は費用対効果が課題

 ここで地域新電力について、これまでの経緯をまとめてみよう。
 基本的には、2011年3月の東日本大震災による福島原発の事故により、再生可能エネルギーへの関心が高まったことが、日本のエネルギー政策の方向性を変えることとなった。
 日本において、地域新電力に注目が集まるきっかけとなったのは、ドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke)に範をとり2015年2月に設立された、福岡県みやま市の「みやまスマートエネルギー」といってよいだろう。
 みやま市の事例は「平成30年版環境白書」でも「日本版シュタットベルケのパイオニア」として大々的に取り上げられるなど、みやま市の事例をきっかけに、地方公共団体による地域新電力の設立・出資が相次いだ。現在、地方公共団体からの出資がなされている地域新電力がおおむね58事業者あるという(2021年10月、東京都環境公社調べ)(1)
「シュタットベルケとは、電力、ガス、水道、公共交通等、地域に密着したインフラサービスを提供する公益事業体のことで、1990年代以降のドイツの電力自由化の中にあっても、地域内経済循環を実現し、地域での新たな雇用を創出しています」(「平成30年版環境白書」31頁)とある(2)
 イメージとしては、日本においては、水道やガス、公共交通を運営する地方公営企業が電力事業にも取り組んでいるということになろうか。ポイントは、図1に示すように、公営企業「みやまスマートエネルギー」が、利益還元として、税金を財源とする地方公共団体からの公共サービスとは別に、地方公営企業としての利益をもとに、独自に公益事業に取り組み、住民サービスも提供するということのようだ。


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出典:「平成30年版環境白書」31頁

図1 みやまスマートエネルギーの仕組み


 一時期は、みやま市への議会からの視察が相次いだ。かくいう筆者も同地を見学し大いに刺激を受けた。こうして見ると、地域新電力は選定要件3を満たす理想的な仕組みに見えるが、区域からのGHG排出量削減を進めることを最優先とする観点からすれば、様々な課題を抱えている。
 現に、みやまスマートエネルギーも、2020年度には最終損益が2億円の赤字、さらには、1億2千万円の債務超過に陥ったことが報じられた(3)
 なぜこうなったかについては、みやまスマートエネルギーだけの問題ではなく、日本の電力供給をめぐる構造的問題があり、その点については稿を改めて説明する。

地域新電力に価格優位性はあるのか

 現状では、地域新電力が1トンのGHG排出量を削減するための単位費用が、他の方法に比べて安いとは必ずしもいいきれない。理論的には、地域新電力を設立するよりも、再生可能エネルギーを利用した発電を積極的に行っているより広域的な会社から電力を購入する方が単純に規模の経済が働き、コスト的にも安い可能性が極めて高いからだ。
 一方で、電力の調達コストが多少高くても、地域内で発電し、流通することで、域外に流出していたエネルギー調達コストが区域内で循環するからよいではないか、それによって雇用や産業も生まれることが期待できる、という考え方もある。
 そのための説明によく国が用いているのが、地域経済循環分析である。


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出典:「令和4年版環境白書」45頁

図2 地域経済循環分析


 図2でいえば、エネルギー代金の流出分約82億円を、区域内の再生可能エネルギー資源を利用して電力や熱を生産し、域外流出を極力防ぐ。さらに、民間投資の流出約57億円の一部も、地域新電力本体及び関連企業に投資することで流出を防ぎ、地域内で循環させるというのである。
 これが、先ほど紹介した選定要件「3 脱炭素の取組に伴う地域課題の解決や住民の暮らしの質の向上」の意味するところの一部である。
 筆者もそういった考え方は嫌いではないが、区域内で地域新電力サービスに関連する企業体が複数存在しなければ競争が生まれず、コストダウンへの企業の意欲も削がれる。つまり、どうしても甘えが生まれてしまうことは、既存の独占企業体である水道、ガス、地方交通などの地方公営企業の例を見ても明らかなことである。
 もし地域新電力への出資に関わる議案が提案された場合は、トン当たりのGHG排出量削減に要する、地域新電力のコストはどのように見込んでいるのか(変動費だけでなく固定費も含む)について現状の予測と事業計画進捗後の将来予測も確認しておく責任が議会にはある。

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