2022.09.12 政策研究
第9回 政策(福祉・保健・医療・保険)と「分配」
「余裕のなさ」、「人によって障壁が異なること」がバリアフリーの難しさ
期待されるバリアフリーにも、整備に際しての問題がある。その問題とは、心(こころ)・時間・財源・土地・建物等の「余裕のなさ」である。
例えば、道のバリアフリーでは、歩道を確保するために土地所有者の心の合意が必要である。心の合意には時間がかかることもある。財源も必要となる。セットバックした後も残る土地や、そこに立地する建物が、機能を発揮できるか否かで判断が変わることもある。バリアフリーの目的を達成するためには、このように余裕が必要であり、余裕のなさがバリアフリーの実現を難しくする。
歩道の幅員が窮屈な場合、車椅子利用者や目が見えて〔視力があって〕杖(つえ)を使う者(高齢者や下肢障がい者)にとっては、点字ブロックがあると障がいとなり不便である。また、横断歩道と車道では段差が1センチメートルある。車椅子利用者や目が見えて杖を使う者にとっては、この段差は障がいとなる。しかし、杖を使う視力障がい者にとっては、横断歩道と車道の区分を知るために必要な段差である。人によって障壁は異なるのである。
なお、歩道の整備には、フラット、セミフラット、マウントアップの方法がある。しかし、最近では、歩行者と車両の相互の安全性を高めるために、また高齢者・身体障がい者等の移動のしやすさという観点から、歩道の高さが比較的低いセミフラット形式(歩道高5センチメートル程度)を採用するようになっている(https://www.mlit.go.jp/road/soudan/soudan_06_02.html〔2022年7月4日確認〕)。
「介助体験の必要性」と「介助のポイント」
単独で行動していて困った場合は、周りにいる人の介助(手伝い)が必要になる。以前、目にしたことであるが、横断歩道の中央に自動車が止まってしまい、その状況で歩行者が一斉に歩き出したことがあった。その中に一人の視覚障がい者がおり、その人は自動車に遮られ(衝突し)立ち止まってしまった。そのとき、近くにいた人が、視覚障がい者の杖を持たない方の手を自分の腕に回し、横断歩道を渡った。渡った後、視覚障がい者には安堵(あんど)の表情が見て取れた。介助した人が視覚障がい者がいることをあらかじめ見つけ、近くにいたのかは分からないが、介助の仕方を知り練習している人は、いざというときにも迅速に対応できることを改めて認識した。
車椅子の介助では、車椅子が横断歩道と歩道の1センチメートルの段差をスムーズに渡れずに、信号が赤になっても車道に取り残されてしまうことがある。このようなときには、車椅子に乗っている者も介助している者も、介助者(自ら)が車椅子介助の方法を知っていたならと思うであろう。また、車椅子に乗っている者にとっては、車椅子が高速で走っていては怖い。車椅子に乗る体験は、介助する体験とともに役立つ。
また、アイマスクは着けたとたんに、一歩踏み出すことが容易ではなくなり、立ち止まってしまう。アイマスク体験をすることは、介助マナー違反時の視覚障がい者の不安を直観的に理解させる。
このように、安心してもらえる介助のためには、介助者が被介助者との共通体験をしておくこと、介助マナーを知り練習しておくことが必要となる。介助のポイントは、「落ち着いて」、「ゆっくりと」、「余裕を持って」行うことである。