2022.08.25 政策研究
第29回 多数性(その3):自治体の業界団体
審議会・政策会議への委員
地方側の意見を国に表明する舞台に、いわゆる審議会や政策会議もある。審議会などの委員に、地方六団体が推薦する委員が、しばしば、地方六団体の組織代表する委員が、任命・委嘱されることがある。もっとも、国の審議会などには、学識者・学界、経験者(官僚OB)・官界、財界・経済界・産業界その他の利益団体、ジャーナリスト・言論界などの関係者など、多人数が委嘱されるため、自治業界=地方界の代弁者は少数であることが普通である。
地方制度調査会もその一つである。地方制度調査会設置法によれば、委員30人以内(3条1項)、臨時委員20人以内(同条2項)であり、委員も臨時委員も「国会議員、地方公共団体の議会の議員、地方公共団体の長及びその他の職員並びに地方制度に関し学識経験のある者のうち」から、首相が任命する(6条1項・3項)。要するに、自治体関係者であっても、地方六団体の構成員や推薦者・代表者とは限らず、首相が一本釣りすることができる。さらに、30人ないし20人という多人数の中で、自治体代表者の比重も明らかではない。実際の運用でも、地方六団体関係者は少数である。例えば、第33次地方制度調査会では、国会議員6人、地方六団体6人で、学識経験者が18人である。とはいえ、地方六団体関係者は全て各地方六団体の会長であり、地方六団体の代表者とはいえよう。
その他の審議会や政策会議では、地方側の委員は圧倒的に少ない。例えば、デジタル臨時行政調査会では、構成員は、国側から①デジタル大臣、②内閣官房長官、③総務大臣、④財務大臣、⑤経済産業大臣の5人であり、残りの有識者側が8人である。とはいえ、いわゆる学識者は2人で、他は企業・産業界が中心の5人である。その中には、財界のナショナル・センターである日本経団連会長が含まれている。しかし、地方界は1人のみであり、しかも、ナショナル・センターである地方六団体代表は含まれず、福岡市長が一本釣りされているだけである。いうまでもなく、一市長が地方一般の利害を代弁することはできないが、「自治体の意見も聴いた」というアリバイづくりにはなる。むしろ、自治体の平均的意見ではなく、デジタル化へ「前のめり」な「少数意見」を「針小棒大」に表明する場にもなりえよう。
地方財政審議会は、外形的には例外的な存在である。総務省設置法によれば委員は5人であり(10条)、地方自治に関して優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て総務大臣が任命するとされているが(12条1項)、そのうちの3人は、
① 全国の都道府県知事及び都道府県議会の議長の各連合組織が共同推薦した者 1人
② 全国の市長及び市議会の議長の各連合組織が共同推薦した者 1人
③ 全国の町村長及び町村議会の議長の各連合組織が共同推薦した者 1人
とされている。要するに、都道府県、市、町村から共同推薦される。各団体から1人ずつの6人ではない。また、知事・市長などの各団体の構成員・代表者そのものというよりは、基本的には学識者が推薦されるので、地方界の赤裸々な利害代弁は困難な運用となっている。
国と地方の協議の場
地方六団体が明確に意見表出するための場が、「国と地方の協議の場」である。もともとは、三位一体の改革の際に、国と自治体の間で補助金削減などをめぐる議論をするために、事実上、存在していた。しかし、三位一体の改革は、地方側にとって大幅な一般財源の圧縮をもたらしたため、いわば、発言権と財源削減がバーター取引されたとみることができるかもしれない。「代表なければ削減なし」である。そのように考えれば、意見表出すればするほど、財源が削減されるともいえる。しかし、通常は、陳情や要求なくして財源獲得はありえない(「代表なければ獲得なし」)と考えられるため、国と地方の協議の場の存在が財源削減をもたらしたのではなく、むしろ、国と地方の協議の場の位置付けがぜい弱だったがゆえと理解し、その法制化を地方六団体は求めたのである。それを受けて、2007年頃以降のいわゆる第2期地方分権改革又は地域(自)主権改革に伴って、法制化した。
2011年に成立した「国と地方の協議の場に関する法律」2条1項によれば、構成員は、
① 内閣官房長官
② 内閣府特命担当大臣(地域自主権改革)(5)
③ 総務大臣
④ 財務大臣
⑤ その他、首相が指定する国務大臣
⑥ 都道府県知事の全国的連合組織を代表する者 1人
⑦ 都道府県議会の議長の全国的連合組織を代表する者 1人
⑧ 市長の全国的連合組織を代表する者 1人
⑨ 市議会の議長の全国的連合組織を代表する者 1人
⑩ 町村長の全国的連合組織を代表する者 1人
⑪ 町村議会の議長の全国的連合組織を代表する者 1人
である。ここでは、端的に地方六団体の代表者がそれぞれ加入することになる。国側5に対して地方側6で、地方側が過半数ということもできるが、法文上も多数決制が明示されておらず、協議が調う(8条)には両者の合意が必要であるならば、過半数か否かは全く意味がない。むしろ、地方六団体間の利害の一致が簡単には形成できないことが、足かせとなる。逆にいえば、各地方六団体は個別に拒否権を持っているともいえる。例えば、政権(国側)と都道府県・市が合従しても、町村が反対すれば、協議は調わない。