2022.08.25 議会改革
第31回 議長という立場・役割
立候補の届出などを規定した公職選挙法86条の4などの規定が自治体議会における選挙について準用されていないからといって、議長・副議長の選挙で、上記のような事実上の立候補制が否定されるものと解すべきでないのはもちろん、議会内での自律的活動に関する手続について議会が自主的に定める余地はできる限り広く認められるべきことからは、地方自治法118条1項などの規定をあまりリジットに解する理由はないのではないだろうか(20)。
立候補の仕組みを採用するメリットや効果としては、議長・副議長の選出の過程・経過が可視化され、住民にとって透明かつ分かりやすくなるだけでなく、立候補者の所信・姿勢が明らかになることで適任者選出の一助となるとともに、立候補者の意欲向上と所信に対する責任と行動の促進確保などが挙げられている。このようなことから、所信表明会は公開され、住民の傍聴を認めているところが多い。
所信表明会では、所信表明に対する応援演説や質疑は行わないとするものがある一方、質疑を認めるところもあるが、その場合でも、質疑は、所信表明の内容に関する疑問点を解消することを趣旨として行うものとされ、質疑者の意見の表明や所信表明内容等の批評などは行ってはならないとされることが多いようである。
全国市議会議長会の「市議会の活動に関する実態調査結果:令和2年中」(以下「市議会活動実態調査」という)によれば、2020年中において議長選出時における議長就任希望者の所信表明等の機会を導入している団体は384(47.1%)、導入していない団体は431(52.9%)となっている。
ちなみに、所信表明会は要綱や申合せによって行われているところが多いが、中には、議会基本条例で、議長・副議長の選出の際の所信表明の機会の設定やその過程を明らかにする旨を規定しているところもある。
議長・副議長の選挙は、単記無記名の投票により行われ(21)、有効投票の最多数を得た者が当選人となるが、有効投票の4分の1以上の得票がなければならず、また、得票数が同じである者がいるときには、当選人をくじで定めることになる。
その一方で、議長・副議長の選挙をめぐっては、残念ながら、不正が発覚するようなことも散見される。議長・副議長の選挙で自分への投票や自分に有利となる投票を依頼して金銭その他の利益を他の議員に渡せば贈収賄の罪に当たることはいうまでもない。
さらに、最決昭和60年6月11日刑集39巻5号219頁は、議員が会派内において議長選挙に関し所属議員の投票を拘束する趣旨で候補者を選出する行為について、議員の職務に密接な関係のある行為として職務行為に当たるとの判断を示し、会派会合において議長候補者に選出されるよう自己に一票を投じるなどしてほしい、他の会派所属議員にも同様の行動をとるよう勧誘してほしい旨の請託を前提とした現金の授受などの行為が贈収賄に当たるとして有罪とした原審の判断を支持した。会派における議長候補者の選出は、本来的には会派活動(政党活動の自由)に属するものであるが、会派内での選考により議長候補者が決定すれば、当該会派に属する議員の義務として議会における議長選挙でも自派の候補者に投票することとなり、その会派が多数派である場合にはその候補者が議長に当選することになるという実態も踏まえ、非公式手続である会派内議長候補者選出と公式手続の議会での議長選挙との拘束を通じた不可分性・直接的影響力を認め、会派内議長候補者選出行為と本来の職務行為である議長選挙行為との密接関連性を認めたものとして、重要な意味をもつ。