2022.08.25 議会改革
第31回 議長という立場・役割
4 議長と議会運営委員会
議会運営委員会は、1991年の地方自治法改正により、常任委員会、特別委員会とは別個の第3の委員会として規定されているものであり、多くの議会で設置されている。従来の自治体議会では、与党・野党といった区分けが薄く、政党や会派の役割もそれほど強くはなかったことなどもあって、会派間の調整を行う議会運営委員会の必要性は高くなかった。しかし、現実問題として、地方でも政党政治が徐々に浸透するとともに、議会運営が複雑化する中で、議会運営を円滑に進めるための調整を行う場の必要が高くなり、それに伴い、それぞれの議会では、事実上の議会運営委員会を設け、そこで議会運営の調整をするようになっていた。議会運営委員会は、そのような自治体議会の側の要望を受けて、法制化されることになったものである。
議会運営委員会の所管については、条例等で自由に決めることはできず、地方自治法で規定されており、①議会の運営に関する事項、②議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項、③議長の諮問に関する事項について、調査を行い、議案等の審査をするものとされている。これらのうち、①の議会の運営に関する事項は、議会運営全般にかかわる事項であり、会期やその延長、議席、議事の順序、発言通告・発言時間、委員会の委員の選任等、特別委員会の設置などがこれに該当する。②は、議会の会議規則、委員会条例等について議会運営委員会の所管として審査や調査を行うものであり、③の議長の諮問事項は、議長の権限に属する事項やそれに密接にかかわる事項などについて議長からの諮問に答申するものであり、議長は、議事日程の作成、議案の付託、議場の秩序維持など、その権限に属する事項であっても、スムーズな運営のために、議会運営委員会の意見を聞くのが一般的である。
以上のように、議会運営委員会は、議長の諮問機関・補佐機関としての役割を果たすものであり、議長は、議会運営委員会における協議の結果に基づいて会議の運営を行うことになる。これによって、実質的な決定権は議長から議会運営委員会に移行し、その立場・役割は形式化・権威化することになる。もっとも、議会運営委員会で協議がまとまらない場合や緊急の必要がある場合などには、議長の判断で運営を行うこともある(16)。しかし、その場合でも、議長は、議会運営委員会での多数意見や多数会派の意向を斟酌(しんしゃく)することが多いともいわれる。
他方、議会運営委員会での決定について、全会一致を原則とするところも見られるが、常に全会一致が必要とすれば意見が分かれる問題について何も決めることができないということにもなりかねない。少数派の意見を尊重することも大事だが、最後は多数決で決めることも必要となりうる。ただ、議会運営をめぐる会派間の対立が激化し、議会運営委員会において数の力が強まり、多数派の意向により議会運営が行われることになると、結果として、議長は多数派寄りの運営を行っているかのような観を呈し、少数派からそのような見方がなされる可能性もある。
また、議会運営委員会での決定は、議長を必ずしも法的に拘束するものではないものの、円滑な運営のためにはそれを尊重することが求められ、事実上拘束される。しかし、議会運営委員会の決定に違法性がある場合はもちろん、不適当であるときには、議長は、全体的立場から決定内容の再検討を求めるほか、異なる判断をすることもありうる。議長と議会運営委員会との関係が良好であることが望ましいのはいうまでもないが、時に対立することもあり、対立が高じるようなことになれば、議会運営に支障を来すことにもなりかねない。
このように、議会運営委員会での大方による決定に基づいている限りは、議長の中立公平性が保たれるものの、その権限・役割は形式化する一方、そうはならない場合には、できる限り不偏不党・中立公正に努めるべきとはいえ、それを貫くのは容易ではなく、議長は、少数派の意見に耳を傾け、その保護者たるべしといわれても、言うは易しのところがある。それぞれの状況に応じた議長の手腕が問われるというほかない。また、各会派・各議員にも、議長の権威を尊重し守るという姿勢・対応が求められることになるといえる。
なお、議長・副議長の議会運営委員会への出席が議論となることもある。議長・副議長が議会運営委員会に出席するかどうかは、それぞれの議会での判断となるが、議長は、もともと地方自治法105条により、委員会であればどこにでも出席して発言できる権利が付与されていることから、議会運営委員会に出席することには問題がないとされる。これに対し、副議長については、委員会に出席する権利が認められているわけではなく、先例・慣例で副議長も議会運営委員会に出席できることとされたとしても、それは委員外議員の出席ということになる。