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2022.08.25 議会改革

第31回 議長という立場・役割

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 このように、日本では、議長の中立・公平の立場を重視する傾向が強いが、その一方で、すべての国の議会で議長はそのようなものと観念されているかといえば、必ずしもそうではない。例えば、アメリカ連邦議会の議長像は、それとは大きく異なる。
 すなわち、連邦議会の下院議長については、伝統的に下院多数党の首長として機能するなど、党派的な役割を果たしており、非党派的であるべきとされるイギリスの庶民院議長とは大きく異なる。アメリカの下院議長は、議事を主宰する権限を有するが、通常、自ら議事を主宰・進行することはせず、自身の所属する政党の他の議員にその任務を委託するほか、議事に参加はせず、議場で投票することもほとんどないといわれる。議長は、委員会の構成・進行に強い影響力をもち、法案が提出された場合にどの委員会に付託するかを決定するが、下院議長の任務は、多数党が支持する法案の下院での成立を保証することであり、そのために、いつ各法案を議題にするかを決定する権限を使用するほか、多数党の下院運営委員会を主宰する。下院議長は、下院と多数派政党を代表し、秩序維持、管理監督や手続に関する機能を遂行するほか、大統領権限継承順位において、副大統領に次ぐ第2位にあり(15)、第3位の上院議長代行より上席である。
 下院議長が実際に果たす役割・機能は、大統領の所属政党と連邦議会の多数党が異なる「分割政府」かそうでないかでも異なり、下院議長と大統領が同じ党に属するときには、議長は、通常、多数党指導者としてそれほど顕著な役割を果たすことはない一方で、下院議長と大統領が対立する政党に属するときには、議長の役割と影響力は増大するといわれる。
 他方、アメリカの上院議長については、合衆国憲法が、副大統領が上院議長となるとともに、可否同数の場合を除き表決権を有しないと規定している。上院議長としての副大統領は、上院の議事主宰者であるとともに、両院通過法案への署名や議事堂区域の管理など各種の権限を有するが、実際には、上院議長として上院の会議に出席し、議事の主宰や事務の処理を行っているわけではなく、副大統領が上院議長職を務めるのは、儀式的な会議の場合や重要法案が可否同数となった際に決裁権を行使する場合などに限られる。合衆国憲法は、副大統領不在時のため、上院は上院議長代行を選出するとしているが、上院議長代行職は実際には実権のない名誉職的ポストとなっており、たまにしか本会議の議事を主宰しない。上院議長代行は、原則として1議事日に限り、上院議長代行代理を任命することができ、上院議長代行代理が上院議長職の職務を遂行するが、さらに他の議員を指名し、臨時の上院議長代行代理として議事を主宰させることができる。実際の議事運営は、議長代行代理と議長代行臨時代理により行われるが、これらのポストには、上院の複雑な議事運営についての経験を積ませる趣旨などから、当選直後の新人議員や1期目の若手議員が任命され、しかも、1時間程度の短時間で交代し、1日に何人もの議員が上院の議長席に着くという。
 このようなことから、上院の議事主宰者は、下院議長のように強力な権限を与えられてはおらず、決定できるのは形式的な事項が多く、議事やその進行については、議場の議員から提案され、それが議院に諮られ、その合意に基づいて進めるのが原則となっている。
 以上のような議長の中立性をめぐるアメリカ連邦議会とイギリス庶民院での立場の違いは、歴史的な経緯だけでなく、会議を実質的に主宰しているかどうかといった役割の相違も関係しているとの見方もある。
 アメリカ連邦議会上下両院における議長のあり方は、ユニークに見えるかもしれないが、日本で描かれる議長像だけが唯一のものではないことを物語っているといえるだろう。

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