2022.08.25 議会改革
第31回 議長という立場・役割
このほか、議長は、会議への出席の催告権、秘密会の発議権、可否同数となった場合の裁決権、会議規則の疑義決定権、会議録の調製・署名権、閉会中における議員の辞職許可権なども有している。
中でも、議長の裁決権は、国会と同様に、会議の表決において可否同数となった場合の処理を議長の決裁に委ねる方法を採用するものである(6)。ただ、国会における議長の決裁権をめぐっては、議長が議員としてもつ表決権とは別個のものと捉える考え方と、議長としての表決権は議長としての立場上限定的であり可否同数のときにのみ例外的にこれを行使するものと捉える考え方があり、解釈としては、議長としての特別の権限を与えたものと解するのが素直なようにも思われるが、実際には、議長は表決に加わらないとする取扱いが帝国議会以来の先例となっている(7)。その理由としては、議長の公平中立性の要求、1人で2票の行使は議長の属する党派に有利となること、議長の決裁権は過半数の原則に対する例外であり実質上の過半数原則を破ってはならないことなどがいわれている。
これに対し、自治体議会については、地方自治法で、議長は、議員として議決に加わる権利のないことが明記されている。
この点、戦前の市町村会と府県会では、当初は、議長の裁決権のみを規定し、表決権については何ら規定していなかったことから、行政実例(明治22年8月23日)は「議決権(議員)ト裁決権(議長)トノ二個ノ権利ヲ有スルモノトス」としたのに対し、行政裁判例(明治38年3月1日判決・大正14年9月29日判決)は「議長トシテ其ノ職務ヲ行フト同時ニ当該議事ニ関シテ議決ニ加ハルコトヲ得ス」などとし、対立していた。このようなことから、1926年の市制、町村制、府県制の改正により「議長ハ其ノ職務ヲ行フ場合ニ於テモ之カ為議員トシテ議決ニ加ハルノ権ヲ失ハス」との1項がそれぞれ加えられることになった。他方、1946年の第1次地方制度改革では、市制、町村制、府県制等が改正され、追加された当該項が削除され、議長の表決権が否定されることとなった。この改正理由について、政府は、「議長は通常多数党所属の議員を以て充当されるのであるが、議長を擁して優位を占める多数党が更に議長の議員としての投票権をも有すると云ふことは政治的礼譲から見て好ましからざることと考へられる」としていたが、これについては、当初は従前どおり表決権を認める案となっていたところ、GHQの指示によって修正されたものであった(8)。1947年制定の地方自治法では、これを引き継ぎつつ、議長は表決権を有しないことが明記された。
もっとも、「議長は、議員として議決に加わる権利を有しない」とする同法116条2項は、議長に表決権がないという趣旨ではなく、表決権はあるもののそれを行使することを許さない趣旨と解すべきとの議論もある(9)。
議長が裁決権をどのように行使すべきかについては、一般的には現状維持のため(否)に行使するものといわれてきた(現状維持の原則)。これは、現状変更の意見が過半数でない場合は新たな意思を加える方向ではなく現状維持とするのが妥当との立場から、消極・現状維持的に行使されるべきとするものであるが(10)、議長の裁決権として認めた以上は、理論上は積極・消極のいずれにも議長の判断と責任において行使することができると考えるべきだろう。衆議院では議長が決裁権を行使した例は帝国議会時代に4回ほどあり、いずれも消極に決しているが、国会となってからは、参議院で2回ほど積極に決した例を生じている。このようなことなども影響してか、最近は、自治体議会においても、従来と比べ、現状維持的行使といったことはあまりいわれなくなってきているようにも見受けられる。
以上のように、議会の議長の権限は広範かつ強大であり、また、それら以外にも、各種の会合・行事等への出席・参加など多忙であり、その実態は常勤職的存在となっているといわれる。その一方で、議長は、予算の執行及び財務会計上の行為に関する権限を有さず、その権限を有する長から議会事務局などにある程度の権限が実質的に委任される形態がとられている(11)。このため、議長は、議会の事務を統理する権限により議会事務局職員の財務会計上の行為に指揮監督を実質上及ぼしうるとしても、住民訴訟において、議会の議長は地方自治法242条の2第1項4号の「当該職員」に該当しないとするのが判例であり(12)、この点については、2002年の住民訴訟制度の改正後も基本的に妥当するものと解されている。