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2022.08.25 議会改革

第31回 議長という立場・役割

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(10) このほかに、再度議会に審議の機会を与えるためとか、現状打破の責任を公平中立であるべき議長が負うべきでないなどといったこともいわれる。なお、現状維持の原則とは、現状維持の方向に決裁権を行使することを求めるもので、常に否とすることを求めるのではなく、現状維持のため可とすることが必要であれば、可とすることも認めるものとの捉え方もある。
(11) 長が、議会事務局職員に対し、その権限を委任することについては、制度上の根拠を欠くため、当該議会事務局職員を長の部局の職員として併任させた上で、権限を委任するなどの措置をとっているのが通例のようである。
(12) 「当該職員」とは、当該訴訟において適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして当該権限を有するに至った者をいうとの前提に立ち、議長交際費等支出住民訴訟事件・最判昭和62年4月10日民集41巻3号239頁は、議会議長の職にあった者は、在任中議会運営費のうちの交際費等の公金の支出につき、財務会計上の行為を行う権限を有していたとはいえないとし、また、市議会議員海外渡航費支出住民訴訟事件・最判昭和63年3月10日裁判集民153号491頁は、議長は、本訴において違法と主張される海外視察に係る公金の支出をする権限を全く有しないとした。
(13) 庶民院選挙では、議長が再選を求めているとしてその選挙区には政党は原則として対立候補を立てないとの慣行があり、また、議長は一度選任されると、慣行により、次の総選挙以降も再任され、辞任するか死亡しない限りその地位にあるとされ、議長が辞めるときには貴族院議員として爵位の授与がなされるともいう。これらは、党籍離脱のバックボーンとなるものともいわれるが、最近の選挙では議長に対して対立候補が出ており、当該慣行は崩れたともいわれる。議長の権限は、秩序維持、議事進行の統制、議院事務の管理などであるが、議事日程の決定等は、与野党院内幹事長間の非公式協議に委ねられている。
(14) 衆議院では、帝国議会時代にも党籍離脱の例があり、戦後も議長・副議長が党籍離脱をする例が散見されたが、1973年5月以降は党籍離脱が続いており、参議院では、1971年から議長・副議長が会派離脱をするのが慣例となっている。この点、衆議院先例集ではその柱書きで「議長、副議長が党籍を離脱する」とするのに対し(ただし、解説では「国会においても、院内において党籍すなわち所属会派を離脱したことは少なくない」などとする)、参議院先例録では「議長、副議長がその所属会派を退会し、各派に属しない議員となった例」とされている。ただ、先例集・先例録に記載されてはいるものの、党籍離脱は先例とは位置付けられていないといわれる。また、衆議院・参議院ともに、所属政党を離党する党籍離脱をした例もあるようであるが、近年は、所属会派を退会する会派離脱とする例が多いといわれる。後者の場合には党籍は残り、例えば政党交付金の算定においては政党所属議員としてカウントされることになる。さらに、議長・副議長の会派離脱は、議長・副議長の在任期間に限られたものとなっている。
(15) ただし、これまでに、大統領継承法の適用により、下院議長が大統領代行になった例はない。
(16) 国会では、与野党間の対立が強まり、膠着(こうちゃく)状態に陥ると、事態の打開のために、議長・副議長が中立的な立場から調停に乗り出し、裁定を下すといったことなどもあるが、自治体議会の場合には、そのような話はあまり聞かれない。
(17) 臨時議長は、議長等の選挙に関して議長の職務を行うものであって、その他の事件については何らの権限を有しないものとされるが、全く選挙事務に限定されるかどうかは議論があり、必要に応じて臨時議長の下で議席の決定、会期の決定なども行うことができるとも解されている。議長選挙に関する議会内の調整が進まず、議長選挙が困難な状況が続くような場合もありうるからとされ、逆に、特に議長選挙を行うことができないような状況が生じていないにもかかわらず、臨時議長がそれらの権限を行使するのは不適当とされている。
 なお、市議会議員選挙後の臨時会本会議において、出席議員中最年長の議員として、議長選出のための臨時議長を務めた際に、議長の選出方法について立候補によることを提案し、出席議員からの異議も認めず、立候補による議長選挙を実施しようとするなどしたため、臨時議長を除く出席議員全員が退出し、再入場後のそれらの議員全員の賛成により臨時議長を解任され、ようやく議長席を退いたことなどを事由として、市議会から除名処分を受け、これを違法であるとしてその取消し等を求めた事案で、札幌高判令和2年12月23日裁判所ウェブサイト(最決令和3年8月5日上告不受理により確定)は、「臨時議長に就任したことを奇貨として、自らの政治的主張等のためにその職権を濫用し、非民主的かつ偏頗な議会運営を行って議事を混乱させ、……出席議員の活動を妨害し、自ら議場の秩序を乱すなどしたものであって、本件一連の言動は議会制民主主義を否定するに等しい極めて悪質な行為であると言わざるを得ないものであるから、……市議会がその自律権の行使として除名の懲罰を選択したことがその裁量権を逸脱又は濫用したものであるとはいえない」とし、除名処分は相当性を欠くとして請求を認容した原審判決を取り消した。
(18) 議長・副議長の任期は、議員の任期によるものとされており、辞職を強制することはできない。
(19) その理由としては、立候補に関する86条の4が準用されていないこと、すなわち、小規模の議会であえて立候補制をとるまでもなく、議員は選挙権と被選挙権をもっているのであるから、誰が適任であるかどうか自然に分かることであるからとされるが(田谷聡「議長及び副議長の地位、権限とその選挙手続」井上源三編『最新地方自治法講座 議会』(ぎょうせい、2003年)222~223頁)、あまり合理的なものとはいえず、説得力を欠くように思われる。なお、この説によれば、議長適任者を推薦する演説も許されないとする。
(20) 前田修志「会議規則の定めるところにより市議会における議長の選挙に立候補制を採用することはできるか」自治実務セミナー2022年4月号28~30頁は、会議規則の定めるところにより、議長の選挙で、①立候補の意思のある者を届出等により明らかにし、②立候補者の中から投票により議長を選出する(=立候補者以外の議員への投票を無効とする)という手法を採用することについて、①が地方自治法118条1項との関係からも認められるとするだけでなく、②についても、立候補者以外の議員への投票を無効とすることは同法103条1項や118条1項で準用する公職選挙法68条1項に抵触しないとする。その理由を見ると、118条1項での準用の有無にそれほど重点を置かなくなってきているようにも見受けられ、また、議長に就任する権利は選挙前後で放棄可能であることや立候補者以外の議員への投票を無効事由としても選任資格自体を失わせるものでないこと、投票対象といった手続的事項に対応する無効事由の定めは議会の裁量の範囲であることなども挙げられている。私見とはされているものの、上記論考も田谷・前掲注(19)も、総務省職員の手によるものからすると、総務省も立候補制についてだいぶ柔軟に解するようになっているものと推察される。
(21) 議長・副議長の選挙を無記名投票で行うのは、議員が何ものにも拘束されることなく、真に自己の判断に従って投票できるようにするとともに、当選した議長・副議長がその職務を円滑に遂行できるようにするほか、投票した議員にも気まずさを残さないようにするとの配慮に基づくものとの建前が語られることが多い。
(22) もっとも、その場合でも、議員の身分を辞することにより議長の地位を去ることは可能である。
(23) ちなみに、町村議会の議長の年齢構成別では、「70歳以上80歳未満」が422人(45.7%)と最も多く、次いで「60歳以上70歳未満」の371人(40.2%)、「50歳以上60歳未満」の84人(9.1%)の順となっており、平均年齢は67.7歳、最年少議長は38歳、最年長議長は86歳であるという。
(24) 国会では、国会法で、議院の役員のうち常任委員長についてのみ院の議決をもって解任することができることを規定しているが、議長・副議長についてもその任にふさわしくない事由がある場合には院としてその辞職を求めることができると解されており、衆議院規則では、議員が議長・副議長の信任又は不信任に関する動議若しくは決議案を発議するときは、その案を具え理由を付し、50人以上の賛成者と連署して、議長に提出しなければならないと規定されている(参議院規則には規定なし)。しかし、その場合でも、決議は法的な効果を有するものではなく、辞任を強制されないものの、院の求めに応じて辞任する政治的責任を負うにとどまるものと解されている。
(25) 行政実例昭和26年1月17日は、会議規則での規定は、地方自治法103条2項に違反するとしている。
(26) 議員としての辞職勧告決議に従わない場合にそれに従わないことを理由として懲罰を科すことはできないと解されていることについては、本連載第18回「議員の懲罰等とそのあり方」で述べたところであるが、議長の不信任決議等についても、議長がそれに従わないことにより議会が混乱したり、審議が滞ったりしたとしても、それに従わないことを主たる理由として懲罰を科すことは困難ではないかと思われる。なお、帝国議会時代の衆議院で、星亨議長が「信任欠乏ノ動議」と「議長不信任ノ上奏案」の二つが可決されたにもかかわらず、院の意思を無視するかのような態度をとったため除名されるという事例を生じたが、古い特殊な事例といえるだろう。
(27) 本件では、除名処分からその取消審決までの間に後任議長の選出が行われていたため、議員除名の対象となった議長が、審決後に再び議長の職を行おうとしたもののこれを阻止され、また、議員の職は回復しても議長の職は回復していないとして、一般議員報酬のみが支給され、議長たる議員の報酬は支給されなかったことから、議長たる地位の確認と、議長任期終了時までの間の一般議員報酬と議長議員報酬との差額の支払を求めて出訴したものであったが、前者については、最高裁への上告後、議員の任期満了により、取り下げられている。議長たる地位の確認の余地がある場合に、最高裁がどのような判断をするかは定かではないが、仮に地位確認の請求を認容する場合には、後任議長の行った行為の効力が問題となりうる。

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