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2022.08.25 議会改革

第31回 議長という立場・役割

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 他方、議会の多数の議員が議長の不信任に賛成することになれば、それらの議員が会議の開会に応じず、審議が行われず、長による専決処分による対応を招くといった事態などを生じることにもなりかねない。多数の信任を失った議長は、辞める義務はないとしても、結局は、議長の職にとどまることは政治的に難しくなることが少なくない。
 いずれにしても、議長の交代や選任をめぐる議会での対立や混乱は、住民不在との批判を招き、議会の信頼の低下を招きかねないことが関係者の間で銘記されるべきだろう。
 議会が議長の地位や任期を左右することができるのは、議員の除名の場合であり、議会が何らかの理由により除名処分に踏み切るようなケースも見受けられる。しかし、除名処分が争われ、除名に値するような事由がなければ、都道府県知事の審決や裁判所の判決によって除名処分が取り消されることになり、その場合には、除名された者は、議員の身分だけでなく議長の地位も回復するかどうかが問題となりうる。
 この点、議長等地位確認請求事件・最判昭和62年4月21日裁判集民150号761頁は、市町村議会の議長たる議員につきされた議会の除名処分が知事の審決により取り消された場合には、除名処分から審決までの間に議会の選挙により後任の議長が選出されているときであっても、当該議員は議員の職とともに議長の職をも回復すると解すべきであるとした。その理由として、同判決は、審決は除名処分が当初からなかったのと同じ状態を現出する効力を有するものであり、新たな議長を選ぶ選挙は、除名処分が有効であることを前提として行われたものであり、除名処分が取り消された以上、その根拠を欠くことになり、効力を失うと解せられるからであり、除名処分を受けた議員が議長の職を回復しないものとすれば、議長選挙に参加することもその効力を争うこともできない当該議員の権利救済に欠けることになるだけでなく、地方自治法の予定しない議会の議決による議長の解職を実質的に認めることになるという不当な結果を招くことになるからとする。その上で、審決により除名処分時に遡って議長たる議員の報酬の支払を請求する権利を回復するとして、原判決を破棄して原審に差し戻し、差戻控訴審判決は、支払請求を認容した(27)
 なお、そこでは、議会における後任議長の選挙の効力について司法判断を行うことが議会の自律権との関係で可能かどうか、地方自治法が議会における選挙につき定める独自の争訟制度によらずに当該選挙の効力を問うことができるかどうかも争点となったが、最高裁は、審決により議長の職を回復したとの主張の当否を判断するに当たっては、後任議長の選挙の効力について触れざるをえないが、選挙の手続の適法性や投票の効力を問題にする必要はなく、審決の効力との関係で当該選挙の効力がどうなるかという一般的な解釈を行えば足り、その限度で選挙の効力について触れても、地方議会の選挙について争訟資格及び争訟手続を定めている地方自治法118条及び176条の規定の趣旨に反し、議会の自律権を不当に侵害することにはならないとして、報酬請求の訴えと司法判断を肯定した。
 議長たる議員としての報酬の支払を求めている中で、除名処分の取消審決による議長の職の回復を判示したものであり、議事をはじめ後任議長が行った行為の効力に影響を及ぼすものではなかったとはいえ、議長と議会多数派が対立した場合の議会としての対応の仕方について、一つの警鐘を鳴らしたものとも見ることができそうだ。

(1) 府県会については、1890年の制定当時から、議長だけでなく副議長も互選(1899年改正で議員中より選挙)とされ、その任期は議員の任期に従うとされていたのに対し、市会については、1888年の制定当時は、毎暦年の初めに議長と代理者1人を互選すべしとされ、1911年の改正で、議長と副議長を議員中より選挙すべきものとされるとともに、その任期は議員の任期によることとされた。
(2) 町村会については、1926年の町村制の改正により、町村長を議長とする仕組みは維持されたものの、「特別ノ事情アル町村ニ於テハ……町村条例ヲ以テ町村会ノ選挙ニ依ル議長及代理者一人ヲ置クコトヲ得」とされたが、当時は条例の制定は内務大臣の許可事項であり、その可否の認定は内務大臣の権限となっていた。他方、1946年の町村制の改正により、町村会でも議長・副議長は議員中より選挙することとされたが、逆に、「特別ノ事情アル町村ニ於テハ……町村条例ヲ以テ町村会ノ選挙ニ依ル議長及副議長ヲ置カズ町村長ヲ以テ議長ト為スコトヲ得」との特例が設けられていた。
(3) 「事故があるとき」とは、法律上又は事実上の理由によって職務をすることができない場合を指し、例えば、長期療養休暇、海外旅行等による不在、面接、食事、用便、災害による出席困難、犯罪容疑による拘留、除斥、懲罰による出席停止などがこれに該当する。「欠けたとき」とは、議長の辞職、除名、失職、死亡などの場合である。
(4) その場合、閉議に対する議員の異議については、議長の閉議宣告の直後の異議申立てであっても閉議宣告は効力を失うものとされ、また、閉議について異議のある議員があることが客観的に明らかであるにもかかわらず異議を申し述べる機会を与えなかった場合も含まれるとされる。問題は、議長の秩序保持権に基づく閉議権(地方自治法129条2項)と議員の異議ある場合(同法114条2項)が競合した際の両者の関係であるが、前者が優先するというのが多数説であり、最判昭和33年2月4日民集12巻2号119頁もそのことを確認する。ただ、同法114条2項の場合における閉議権の行使が認められるとしても、「会議の続行について意見の対立があるのであるから、必要によっては第129条第1項の規定を適用し、その他議長の職権をもって極力議場の秩序保持に努め、本条〔第114条〕第2項の適用を図るべきであって、あらゆる努力にもかかわらず、なお、議場が騒然として到底整理の見込みなしと認められる場合に限って同項〔第129条第2項〕の規定を適用すべきであり、いやしくも濫用の疑なきよう厳に戒むべきである」(行政実例昭和23年1月3日)とされている。
(5) なお、議長も、常任委員会の委員となるのが一般的であるが、その性格・立場から、就任後の辞任が認められている(行政実例昭和31年9月28日)。ただ、実際には、議長である委員が常任委員会の審査に出席して発言をし表決していることも少なくないようであるが、それはあくまでも常任委員としての行為にとどまるものである。
(6) 一般に、国会では「議長の決裁権」と呼ばれるのに対し、自治体議会では「議長の裁決権」と呼ばれるが、両者の間で違いはない。
(7) 諸外国の議会では、議長に表決権を認め、可否同数となった場合は否決とする例、議長の表決権を認めず可否同数の場合は議長が決裁権を行使する例などがある。前者の例としては、アメリカ連邦議会下院、ドイツ連邦議会などがあり、後者の例としては、イギリス庶民院、アメリカ連邦議会上院などがある。なお、フランス国民議会では、議長は表決権を行使しない慣行がある上に決裁権が認められていない。
(8) 内務省『改正地方制度資料・第1部』(1947年)地方制度改正関係答弁資料1242頁、自治大学校研究部監修・地方自治研究資料センター編『戦後自治史 第一巻』(文生書院、1977年)「戦後自治史Ⅱ」146~148頁。
(9) 西沢哲四郎『地方議会の運営Ⅱ』(教育出版、1970年)150頁。

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