2022.08.10 政策研究
第7回 ゼロカーボンシティの表明をパフォーマンスで終わらせないために
森林面積が大きい市町村こそ積極的な区域施策編の策定を
本連載第2回でも述べたように、人口規模が小さくGHG吸収量の多い森林を多く抱える市町村ほど、区域施策編の策定を検討されることをお勧めする。
しかし、実際には、浜松市のようにGHG排出量と吸収量の双方を算定し、合算しているまちは少ないようだ。
例えば、森林面積全国1位の岐阜県高山市(18万9,603ha:2015年)。高山市は、区域施策編が策定されているが、算出されているのはGHG排出量のみ。一方で、区域施策編には「本市の森林による二酸化炭素吸収量は2018(平成30)年度において約57.8万t-CO2 と推計されます」と記載されている。2018年のGHG排出量が60.7万t-CO2と算出されているので、相殺すると、2018年時点でゼロカーボンに限りなく近い。なぜ、森林吸収量を排出量と合算した計画を策定しないか理解に苦しむところだ。
森林面積全国2位の栃木県日光市(12万1,122ha:2015年)も環境基本計画と統合した区域施策編がありながら、GHG吸収量についての記述が確認できなかった。
一方、前回も取り上げた福岡県北九州市では、森林等による吸収分を計上している。
人口がさらに少ない町村単位で考慮すると、現況推計においてGHG排出量よりGHG吸収量が多いケースは考えられる。そういった町村では、区域のGHG吸収量をクレジット化して、ゼロカーボン達成を求めるまちに何らかの形で移転させる方法も研究していく必要があるだろう。そういった事例の一つを紹介しよう。
興味深い浦安市と山武市の「カーボンオフセット」
今年3月、浦安市と山武市が「カーボンオフセット」協定を結んだという(4)。
浦安市の発表によれば、両市は3月23日、「浦安市と山武市の連携による森林整備の実施に係る協定」を締結。この協定では、山武市の森林整備の一部を、浦安市が国から交付された森林環境譲与税で負担する。森林整備によって確保される「二酸化炭素吸収量」を浦安市に還元する、などとしている。客観的な第三者の評価や、評価基準が制度として確立しているのか、など、制度上の問題がいくつか残るが、こうした都市と農山村間の「二酸化炭素吸収量」の取引は、2050年に向けて活発化するだろう。特に注目しているのが、都市と農山村間の姉妹都市締結を通じた「二酸化炭素吸収量」の取引である。
先ほどの表1に示した埼玉県内市町村の事例でも、やはり小規模農山村ほど、区域施策編の策定に積極的ではない傾向が見られた。人員も予算も限りがあるので、区域施策編策定にまで取り組む余裕がないのだろう。そのような町村は、ゼロカーボン達成のため、「二酸化炭素吸収量」を欲しがっている都市部の姉妹都市の協力を仰ぐということも検討すべき時期に来ている。
(1) 環境省「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況」(https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html)。
(2) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/7335/document2.pdf
(3) https://www.env.go.jp/content/900518858.pdf
(4) 浦安市ホームページ「森林整備の実施に係る協定を締結しました(令和4年3月23日)」(https://www.city.urayasu.lg.jp/shisei/koho/topics/1034799/1035404/1035580.html)。