2022.08.10 政策研究
第7回 ゼロカーボンシティの表明をパフォーマンスで終わらせないために
GHG吸収量の算定方法は二つの手法(森林・都市緑化)のみ
実際に、GHG吸収量を算出して、将来推計に反映させている市町村もある。例えば、政令指定都市の静岡県浜松市である。浜松市は2005(平成17)年の市町村合併に伴い市域の66%が森林になったこともあり、GHG排出量削減に向けた四つの施策(緩和策)の一つとして、2030年には「二酸化炭素吸収源の確保(森林吸収量:249.4千t-CO2)」を挙げている。
さらに、2050年にはGHG排出削減量を3,662千t-CO2とし、排出量は291千t-CO2に設定。この削減しきれなかったGHG排出量を森林資源の活用と保全によるGHG吸収量291千t-CO2で相殺する計画案を提案している。
出典:「浜松市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」12頁
図 二酸化炭素排出実質ゼロに向けて
浜松市が公表している「温室効果ガス排出量・吸収量・指標等の推計・算定方法」(2)には、吸収量の算出方法が記載されている。
この資料によれば、「森林吸収量は、浜松市内の樹種別・齢級別の森林面積に、樹種別・齢級別の1年当たりのおおよその炭素吸収量を乗じ、12分の44を乗じて二酸化炭素吸収量としました」とある。森林吸収量については、林齢が古くなればなるほど、二酸化炭素吸収量が低下することが知られている。日本全体で見れば、戦後すぐの植林から相当年数が経過していることから、何も手を加えなければGHG吸収量は低下していく傾向がある。しかし浜松市では、先ほど見たように、2050年の森林吸収量が2030年より上回っている。新たな植林などの何らかの手立てを講ずる必要があるだろう。
出典:「浜松市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」資料-2「温室効果ガス排出量・吸収量・指標等の推計・算定方法」58頁
表2 1年当たりのおおよその炭素吸収量
森林吸収量の算出を含めたGHGの吸収量算出については、環境省「地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル(算定手法編)」190〜202頁に詳細に記載されているので、そちらを参照いただきたい。
特に森林吸収量の算出は、表2にあるように、GHG排出量の算出基準である活動量×排出係数ではなく、面積が基本単位となることに留意していただきたい。そこに、森林ごとの違いに基づく吸収量を乗ずると考えていただければよい。
浜松市の場合は、森林吸収量のみの計上となっているが、日本国が気候変動に関する国際連合枠組条約に提出している吸収量には、①森林吸収源対策による吸収量(4,050万t)、②農地土壌炭素吸収源対策による吸収量(270万t)、③都市緑化等の推進による吸収量(130万t)となっている(括弧内の数字は、「2020年度の我が国の森林等の吸収源対策による吸収量」)(3)。
上記①~③の方法のうち、①が全体4,450万t中4,050万tとほぼ9割を占めている。そのため、①の場合のみの計上というのは納得できる。さらにGHG吸収量を引き上げるために、農地や草地を多く有する地方公共団体では、②の方法もこれからは有効である。この方法は、バイオ炭(植物から得られた炭)を農地や草地に埋めて炭素を固定する方法である。
日本全体の2020年度GHG排出量が11億5,000万tなので、吸収量は排出量の約3.9%とそれほど割合は多くはない。