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2022.07.25 政策研究

第28回 多数性(その2):ミクロ自治論とマクロ自治論

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マクロ自治論の着眼点

 多数の自治体が存在するときに、何を観察記述するのかは難しい問題である。全数(悉皆(しっかい))調査することによって、すべての自治体について観察記述することが、労力を無視すれば、あり得よう。仮にそうだとしても、そこから何を見いだすのかという問題である。ミクロ自治論をすべて集計すれば、マクロ自治論になるというわけではない。脈絡のない全数調査の結果をそのまま提示されても、自治体一般とはいえない。
 例えば、自治体の総合計画について全数調査をする。すべての自治体から、総合計画を取り寄せることが必要になるが、それ自体は手間をかければできる。しかし、その冊子を積み上げても、あるいは、すべての文章・図表を読破しても、それだけでは、個々の総合計画を悉皆収集しただけであり、マクロ自治論にはならないのである。そこで、何らかの理論に基づいて、共通項目を選び出して、観察記述することになる。
 そもそも、総合計画を策定しているか、していないか、という観察ができる。総合計画を全数調査したという段階で、総合計画という共通項目をアプリオリに設定しているわけである。その場合には、ミクロ自治論を離れて、そもそも総合計画とは何か、そもそも総合計画に着目する理論的な意味は何か、を論者がマクロ的に先決する必要がある。その上で、例えば、計画期間の長さ、計画策定の年度、計画の構造(例えば、基本構想─基本計画─実施計画の三層構造であるか否か)、ローリングの有無、計画策定部局、計画策定審議会の有無や構成(例えば、公募住民委員がいるか、など)、パブリックコメントの有無など、いろいろな着眼点を適用すれば、個々の自治体の総合計画状況から、それを集計してマクロ状況が記述されることになる。
 こうした観察結果から、マクロ自治論は一般的・全般的な自治体の動向を記述することになる。もっとも、なぜ、このような項目に着眼したのかは自明ではなく、何らかの関心や理由が必要になる。そもそも、観察項目や着眼点が全く思い浮かばなければ、マクロ自治論としても浮上してこない。そして、こうした観察結果から、さらに何を導くのかも、何らかの関心が必要である。マクロ自治論では理論が重要である。
 しばしば、観察対象である自治体の多数性を反映して、多数の自治体が全体として、どのような実態になっているのかが、重要な関心となろう。マクロ自治論は、もしすべての自治体がクローンのように同一であれば、そもそも存在する必要はない。一つの自治体を調べれば済むからである。すべての自治体又は多数の自治体を調査するのは、個々の自治体が何らかの意味で異なっており、共通の観察項目や尺度を当てはめれば、違いが観察して浮かび上がってくると想定されるからである。もっとも、違いがあるならば、自治体一般は記述できないだろうとミクロ自治論では考えることになる。
 ともあれ、マクロ自治論では、こうして、多数の自治体は共通項目・尺度に沿って観察され、分布・分散や平均や、相対多数や、グループが記述されることになる。記述統計学は、標本数、度数分布、期待値、平均値、分散、標準偏差などに着目せよという知識である。さらには、相関関係やクロス分析などもある。マクロ自治論でも、これらの諸点に着目することはできよう。しかし、それ以外の観点から分類・分析することもある。
 もっとも、自治体の場合には、すべての標本としての自治体が同じ比重を与えるべきか、には価値判断がいる。例えば、住民の少ない自治体と、住民の多い自治体を同じように1と集計すべきかは、論者の理論構成次第である。例えば、人口段階別にグループ化して、同一グループ内でのみ集計することもしばしば見られる。もちろん、これも一種の価値判断であるし、人口段階別に傾向が異なる、という観察記述を誘導する枠組である。人口段階別の違いを出したくないのであれば、人口比重をかけて集計することもあろうが、こうすると、人口の大きな自治体の傾向や平均が、すべての自治体の傾向や平均として観察記述されてしまうという誘導をもたらすかもしれない。

(謝辞)本論執筆に際しては、荒見玲子・名古屋大学教授のコメントを得た。氏のコメントのすべてを反映しているわけではないが、大いに感謝するところである。

(1) 100メートルを10秒未満で走った個人がいたときに、人類が10秒の壁を破ったとみるのか、ある特定のアスリートのみが達成できたとみるのか、の違いである。
(2) 地方自治研究機構ウェブサイト「住民投票に関する条例」(2022年4月10日更新)(http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/046_referendum.htm)。
(3) なお、自治制度自体が全国共通であるとは限らない。例えば、大都市特例としての政令指定都市制度や、都区制度などは、限られた自治体にとっての制約環境にすぎず、すべての自治体にとっての共通する自治制度ではない。しかし、当該制度の制約を受ける自治体から見れば、自治制度と自治実践という関係は成立している。また、地方自治一般論は、政令指定都市制度・都区制度というような大都市制度を含めて、自治制度論として記述されることになる。

 

 

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