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2022.07.25 政策研究

第28回 多数性(その2):ミクロ自治論とマクロ自治論

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制度と実践の曖昧な境界

 自治制度論とミクロ自治論(自治実践論)の組み合わせ、あるいは、線引きは、実は自明ではない。なぜならば、自治制度自体が、つまり、個々の自治体にとっての制度的制約自体が、個々の自治体の働きかけによって変わり得るからである。例えば、特別区の区長準公選運動が、地方自治法改正による区長直接公選制の復活という自治制度改革につながったこともある。この場合には、制度自体が、ミクロ自治論に含まれる。
 また、既存の自治制度、あるいは、改革された自治制度を、実際にどのように使うのかは、個々の自治体であり、一般的に自治制度論が存在するわけではない、という立場があり得よう。例えば、住民投票という制度を国が設定すれば、自治体はその制度的制約の中でミクロ自治を展開する。日本の場合には、一般的な拘束力ある法定住民投票制度を否定する自治制度を有している、と国によって解釈されている。この自治制度官庁の有権解釈自体を否定し、自治体による自主解釈を行い、拘束型住民投票条例は可能だと判断すれば、住民投票制度自体を個々の自治体が構築することができるかもしれない。あるいは、国による有権解釈を前提にしつつも、諮問型住民投票条例は違法ではないと反対解釈できるから、諮問型住民投票制度を個々の自治体は構築できるという制度論が展開できる。後者の自治実践が普通である。そして、国も諮問型住民投票条例を違法であるとは解釈していない。住民投票に係るミクロな自治実践は、自治制度に係るミクロな運用も含んでいる。自治制度論とミクロ自治論の線引きを、少なくともすべての住民投票ができないという制度的制約があるわけではない、という方向でミクロ自治の実践で変更してきたといえる。
 制度は常に解釈という実践を必要とする。この解釈を、個々の自治体が行うのか、それとも、個々の自治体を離れて第三者(自治制度官庁や国会や裁判所や学者など)が行うのか、という問題が常に残る。自治制度の解釈を国が握る限り、全国的に統一され、個々の自治体にとっては制度的制約環境となる。しかし、そこに自主解釈の余地がある限り、自治実践は統一的な自治制度を浸食する余地がある。
 さらに、個々の自治体が制度を設計できる場合がある。アメリカの自治憲章制度がその典型である。例えば、市会・強市長制(日本の議会・市長関係に似る)を選択するか、市会・市支配人制(市会が市支配人を任命)を選択するかは、個別自治体の決定という自治実践そのものというときもある。この場合には、自治制度論はなお一層、ミクロ自治論に吸収されよう。そうはいっても、自治憲章制度自体は州が設定する自治制度枠組であるので、自治制度が全くゼロになることは、通常は考えにくい。日本でも、副市町村長・副知事の人数や議員選出監査委員の有無、任意設置自治体での人事委員会の有無、選挙区割・特例選挙区制度、総合区制度、大都市地域特別区設置の有無など、一定の自治実践による制度選択はある。つまり、自治制度が、すべての自治体に共通して個々の自治体では変えられない部分だけではなく、個々の自治体が自らの実践によって変えられる部分を含むわけである。

マクロ自治論

 しかし、自治体は多数性を持っている。そこで、冒頭で自治の動向として論じたように、自治体は全体としてどのような運営の特徴を持っているとか、どのような傾向や分散を帯びているのかなどを、概括的に把握しようという関心がある場合もある。このときには、特定の個別具体の自治体ではなく、およそ、自治体一般、あるいは、自治の全体像を把握することが関心となる。これを「マクロ自治論」と名付けることができよう。
 自治体の多数性を想定すると、マクロ自治論が自然になるかもしれない。個々の自治体を取り上げて詳述しても、例外であって、典型・代表ではないと、耳を傾けてもらえないかもしれないからである。その場合には、個々の自治体が典型・代表であることを論証しなければならず、結局、全体像を把握することが別途必要になる。こうして、個別性や固有名詞としての自治体ではなく、自治体一般を解明しようとするわけである。もっとも、自治体一般は実在しないので、あくまで、マクロ自治論の観察記述による理論的な構築物である。多くの自治に関する研究や教科書の記述、マスコミ報道などは、こうした自治体一般を念頭に置いていることも多い。
 しかし、ある特定の自治体は「その他大勢の仲間」と一括できる「類的存在」に回収しきれず、それぞれに個別性・個性あるいは特異性・卓越性・唯一性がある存在でもある。そうとするならば、ミクロ自治論しかあり得ない、という立場もあり得よう。自治体一般などは、そもそも存在しないのである。個々の自治体のそれぞれが、かけがえのない固有性・個別性を持つと考えるわけである。もっとも、自治体一般がバーチャルな構築物にすぎず、個別自治体が実在するリアルな存在である、とは限らない。個別自治体を観察記述することも、自治体一般を観察記述することと同様に、論者の何らかの関心によって記述されているのであるから、ミクロ自治論も理論的な構築物である。

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