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2022.07.25 政策研究

第28回 多数性(その2):ミクロ自治論とマクロ自治論

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数の論理

 論者の理論構成次第という自治体一般論は、「客観性」に乏しいと考えることもできよう。論者の選択した理論に依存した「主観的」構築物になっているからである。「客観」的立場を標榜する場合には、平均的動向とか、多数派の動向とか、全自治体の現象を集計した総和で、自治体一般を誰が論じても同じ結論になるように、「事実」それ自体によって語らしめる、という「員数」的・「統計」的作戦がとられることもあろう。過半数あるいは相対多数ないしは絶対多数の自治体が行っているという「自治的多数決」という考え方もある。数が大事という見方である。
 数によるという見方に立てば、例えば、上記の住民投票という現象も、巻町のみの単一実例なのか、その後も後続する複数実例が存在したのか、数が増えているのか否かで、自治体一般論は変わる。もっとも、住民投票を実施したことのある自治体は、その後今日まで含めても、数の論理からすれば、少数派にすぎない。合併型が350件程度、重要争点型は45件という。未実施を含めて住民投票条例を持っている自治体に拡大しても、80件程度と同様である(2)。合併型が350件あるのは、合併後の自治体数約1,700を分母とすれば、そこそこの比率ともいえるが、合併型ということは合併前の自治体数約3,000を分母とせざるを得ないから、比率は1割程度という少数になる。もっとも、合併が全く争点にならなかった自治体もあるので、やはり、比率はもう少し高いともいえる。ともあれ、いずれにせよ、「員数」的・「統計」的には、半数に満たないのであるから、自治体一般の動向に含めることは、「自治的多数決」に従えば、できないかもしれない。
 しかし、絶対的に少数であっても、ゼロよりは多いともいえる。また、時期区分をすれば、特定の時期には相対的に住民投票を行う比率は高い、という記述もできる。つまり、いつの時代でも住民投票は少数派ではあるが、しかし、ゼロではなくなった以上、あるいは、比率が時期によって変わっている以上、自治体一般の動向としては捉えるべきものかもしれない。結局、「員数」的・「統計」的に「客観性」を指向したとしても、どのように捉えるのかは理論構成次第であろう。そもそも、「員数」的・「統計」的手法をとること自体が、一つの「主観」的な理論選択であるし、「統計」的手法も理論を前提としているからである。

ミクロ自治論と自治制度論

 以上のように考えると、「員数」的・「統計」的手法の有無にかかわらず、多数からなる自治体の一般的動向などというものは、理論的構成の構築物にすぎず、かなり怪しげなものということもできる。結局、存在するのは、個々の自治体と、個々の自治体を取り巻く制約環境となる、という見方もあり得る。後者は、例えば、地域社会や地域経済状況や地域文化や自然・気象条件なのであるから、これまた、自治体にとって一般的な制約環境は存在しない。あくまで、個々の自治体と個々の自治体を取り巻く制約環境という、固有の組み合わせとなる。
 しかし、例外的に、制約環境の中で、自治制度が全国(又は都道府県内)で統一されている場合、自治制度という制約環境は域内のすべての自治体で共通する。つまり、自治体一般論は、自治制度が制度的に統一している限りで、自治制度論としてのみ存在する(3)。自治一般論が、しばしば、国が定める自治制度論になるのは、こうした特徴を反映している。自治一般論といいながら、実は、国政が定めた制度を論じていることになる。例えば、2000年の第1次分権改革を自治一般論として位置付けるのは、このような発想である。これは、実に奇怪な現象ではあるが、すべての自治体に共通するのは自治制度しかないのであれば、それなりに理屈がある。
 ある特定の一の自治体に焦点を当てて、その行政運営を解明することは、自治体行政学にとって、基本的な視角かもしれない。我々が自治体に興味を持つ場合には、個別具体の特定の自治体がどのようになっているのかに、興味関心が存在することが普通だからである。これを「ミクロ自治論」と名付けることができよう。一般的な自治制度の制約の中で、個別自治体の実践がある。自治実践として、自治体の運営や権力構造、あるいは特徴や歴史などを解明することが重要になる。しばしば、市史(町史・村史)などの自治体史や議会史の編纂(へんさん)事業があるが、それは、特定の固有名詞を持った自治体の実践を解明するものである。ミクロ自治論と自治制度論、あるいは、自治実践論と自治制度論という関係である。
 とはいえ、ミクロ自治論も理論からは逃れられない。自治実践として何に着目すべきかは、漫然とした直感に委ねられたとしても、何らかの理論的な関心が潜在している。むしろ、理論を自覚しない散漫な記述になりやすい危なさを持っている。

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