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2022.07.25 議会改革

第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─

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 また、②の懲罰の場合には、出席停止の期間における議員報酬の支給の停止を定めるところがあるが、職務の対価という論理から支給停止は可能ではあるものの、出席停止は、本人に帰責性はあるとはいえ、自己の都合による欠席とは異なることなどもあり、場合によっては二重処罰といった批判を生じる可能性もないではない。
 最も議論が多いのは、③の議員が刑事事件の被疑者や被告人として逮捕、起訴、勾留その他の処分により身体の拘束を受けた場合の当該処分による身体の拘束が解かれた日までの期間の議員報酬の支給の停止である。中には、起訴された場合に、公務災害・感染症や出廷を理由とする欠席の場合を除き、会議及び委員会を欠席した日の属する月の議員報酬を全額停止するところもある(32)。ただ、そのような場合には、身体の拘束や訴訟対応等のため出席できないとしても、その段階では無罪の推定が働いているとともに、議会外での犯罪容疑により逮捕・起訴されただけでは、失職することはなく、懲罰の対象とすることもできないなど、本人が辞職しない限り、その地位を失うことはない。しかも、その間において、議員としての活動が一切行われていないとは限らない。他方、議会や住民から辞職を求める声が上がり、議会が議員辞職勧告決議を可決することもあるが、身の潔白や議員の職責を全うするなどとして辞職しない場合も少なくない。
 その場合の議員報酬の停止は、欠席により職責を果たせないということだけでなく、犯罪容疑による身体の拘束等が住民の信頼に反することによる制裁的なものとして規定されているもののようである。また、逮捕・起訴の段階では有罪かどうかが確定しているわけではないことから、支給を停止されていた議員報酬と期末手当は、公訴の提起がされなかったときや、無罪の判決が確定したときには、支給される一方、当該支給停止に係る刑事事件について有罪の判決が確定したときは、支給しないとされるのが一般的のようである。
 支給停止については、議員報酬が役務の対価であり、生活給としての性格を有しないことを前提としていると見ることもできる。ただ、実際には、実質的に生活給的な意味合いをもちうることもないわけではなく、また、議員としての活動が一部行われているのにもかかわらず、全額の支給停止とするならば、その妥当性が問題となる可能性もないとはいえない。
 なお、議員が選挙犯罪で当選無効となった場合に、議員報酬の返還が問題となることもある。
 この点、選挙犯罪で有罪・当選無効となった者に対し市から支給を受けていた議員報酬及び期末手当が不当利得になるとして市への返還等を求めた住民訴訟で、東京高判平成13年11月28日判時1780号86頁は、公職選挙法違反の罪により有罪判決が確定した議員は、同法251条により当選が無効とされ、はじめから議員としての身分を取得しないものとなるので、議員報酬及び期末手当を取得する法律上の根拠はなく、支払を受けた報酬等は不当利得となるとして、返還義務を認めた。この裁判例を踏まえて、当選無効の場合には、支給を受けた報酬及び期末手当はすべからく返還されるべきとの見方をする向きもあるようだが、この事案は新任期が始まる前に逮捕、勾留、起訴され、辞任までの期間が90日足らずの短期間であり全期間中、刑事事件の被疑者・被告人であったというやや特殊な事例であり、また、不当利得返還請求権が生じる場合を限定的に解し市は被告に対して返還請求権を有しないとした第一審の判断を覆した判決の論理には様々な疑問や批判もある(33)
 選挙犯罪の当選無効の効果が遡及するといっても、それは政策的にそのような構成とされた面があることは否めず(34)、遡及するといっても、当該議員がかかわった議決の効力にまで影響を及ぼすものと解することはできず、どのような論理構成によるにせよ実際に議員としての活動を行った実態がある場合に受け取ったすべての報酬について返還義務があるとするのは法的には難しいのではないかと思われる(35)。裁判例としての位置付け・評価・射程をしっかりと見定めるべきであり、また、基本的には、上記のような条例制定の動きもある中で、自治体における立法的な対応により処理されるべき問題といえるだろう。

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