2022.07.25 議会改革
第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─
例えば、都道府県議会議員の報酬については、1962年11月に開かれた全国都道府県議会議長会事務局長会議で講演した自治省行政局長が、「議員報酬は、よるべき基準がみつかりにくいが、常識的に考え、専門職員としての性格を有していないので報酬が当該地方団体の部長クラスを上回るのはおかしい。当局としては、基準を部長の中間クラスもしくはそれ以上が適当と考え検討している」と述べるとともに、「各都道府県の俸給表の一等級の中間にあたる額」を適当とする旨を省議でまとめ、同月に都道府県知事宛の内かんを発出した。しかし、これに対しては、全国都道府県議会議長会は、当該内かんが何を根拠とするか疑問であり自治権に対する不当な干渉であると抗議し、自治大臣に、見解を改め、今後このような措置をとらないよう申入れを行った(20)。
自治省の指導は功を奏することなく、その後も攻防が展開される。
自治省は、1964年5月には、自治体の三役・議員らの給与の改定は、住民代表による第三者機関で審議した後、行うこととする地方自治法改正案(21)を準備し、報酬改定に住民の意思を取り入れることによる納得の醸成を建前としつつ、報酬改定の抑制を目指した。しかし、これに対しては、都道府県議会議長会は、緊急総会で「地方自治の本質を破壊するような法的規制には強く反対する」との決議を行うとともに、自治大臣に対し、都道府県議会で自主的にそのための条例を設けるから、法改正はとりやめ、行政指導で行ってほしい旨を要望する。これを受け、法案提出が見送られるとともに、自治事務次官通知「特別職の報酬等について」(昭和39年5月28日自治給208号)が発出されることとなった(22)。
その後も、自治省は、本稿2で言及した1964年12月の行政局長通知のほか、1968年に行政局長通知「特別職の職員の給与について」(昭和43年10月17日自治給94号)を発出し、審議会に諮問を行うに際しては、人口、財政規模等が類似している他の自治体における特別職の職員の給与額、当該自治体における特別職の職員に関するここ数年来の給与改定の経緯、一般職の職員の給与改定の状況等に関して一定の項目の資料を提出し、審議会において十分な審議が行われ、適正な給与額の答申がなされるよう配意することなど審議会の運営の適正化を求めている(23)。1973年には、自治省行政局公務員部長通知「特別職の報酬等について」(昭和48年12月10日自治給77号)を発出し、特別職の報酬等について自動的に引き上げられることとなるような方式の採用は法の趣旨に違背するばかりでなく、特別職報酬等審議会の実効性が失われるとして採用することのないよう求めたりもしている。
他方、都道府県議会議員のような自治省による目安が示されてこなかった市議会議員と町村議会議員については、1969年に全国市議会議長会が「市議会議員の報酬基準額について」を取りまとめ、公表するに至り、「議員報酬を市長給の概ね1/2に該当する課長給を最低基準とすることが適当である」との考え方が示された(24)。これが一つの標準となり、市議会議員の報酬についても次第に執行部職員の給料と連動することとなった。
また、町村議会議員については、全国町村議会議長会政策審議会が1978年に「議員報酬のあり方について」を提案するとともに、その実現に努めるために「議員報酬の適正化に関する申し合わせ」が行われている。そこで示されたモデルでは、首長の給料を基に首長と議員の年間の職務遂行日数を比較する形で、議員報酬を首長給料の30~31%を標準とするものとしており(25)、その後、議員報酬は首長給料の30%程度で推移してきている。