2022.07.25 議会改革
第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─
ちなみに、一般職員や民間従業員の給料、賃金等については、それにより生計を維持している債務者やその家族の最低限度の生活の保障の観点から、民事執行法152条1項により給付の4分の3に相当する部分の差押えが禁止され、また、公務員の給料(俸給)請求権については譲渡・放棄も制限されると解されているのに対し、議員報酬については差押えも、譲渡も認められると解されており(8)、これも上記のような見方などとも関連するものと見ることができるだろう。
他方、国会議員の歳費については、学説は、報酬説と費用弁償説とに分かれており、前者の場合には生活保障的な意味合いにも言及するものも少なくなく、また、衆議院議長の諮問機関として設置された有識者による調査会の答申(9)では、「全国民の代表たる国会議員がその重要な職務を遺憾なく遂行することについての報酬」、「国会議員がその地位にふさわしい生活を維持するための報酬」と述べられている。もっとも、国会議員の歳費についても民事執行法上の差押えが認められており、学説上もこれを否定するものは少なく、報酬説に立つ代表的な学説が公務員の「職務上の収入」とは性格を異にするとか、そのような特典は認められないと言及していることからすると(10)、報酬説も費用弁償的性格を全く無視するものではないとの見方もある(11)。
報酬説の立場は、国会議員の職務の専業化・専門化の不可避的傾向を反映するものともいわれ、歳費の意義として普通選挙の下でのすべての者に対する政治参加の機会の実質的保障といったことを指摘する議論も見られる。ただ、議員は兼職を禁止されておらず他の職業に従事することも可能であること、諸外国における議員の位置付けや議員への支払の多様性などから、生活保障とまで踏み込んだり、費用弁償的要素を完全に否定したりすることには躊躇(ちゅうちょ)も見られ、報酬としての性格が強められているといった観察にとどめる見方も少なくない。政治参加の機会の実質的保障についても、そのような意義があることは否定できないとしても、専業化が前提とされているところがあり、また、これを前面に打ち出す場合には、国会議員と自治体議会議員とで報酬の保障の意義・程度は異ならなくなるはずであるが、必ずしもそうはなっていない。
自治体議会議員の場合には、上記のように名誉職的な要素が完全に否定されているわけではなく、生活給としての性格が否定されたり、職務の実質に応じた支給がいわれたり、勤務日数に応じた支給も否定されていないことなどからすると、議員報酬の位置付け・性格はより曖昧なところがあると見ざるを得ない。
なお、そこでは、国会議員の歳費の場合にいう「報酬」と自治体議会議員の場合に用いられる「報酬」とでは意味合いが異なることに留意が必要である。すなわち、国家公務員等について「報酬」という場合には、その地位に対し職務と責任に応じて与えられる給付を意味し、「給与」とほぼ同義に用いられ、歳費に関する報酬説もそのことを念頭に置いたものであるのに対し、地方自治法で「報酬」は議員や非常勤の者の役務の対価としての給付に用いられており、常勤勤務の者に対する「給料」と区別されている。したがって、議員報酬について、歳費をめぐる報酬説と費用弁償説の議論を当てはめるならば、生活保障ではなく費用弁償的な性格がより強いとする見方がなされてきたということになるだろう。
ただ、それは固定的なものではなく、また、議員報酬は法律で規定されているものではあるものの、その位置付け・あり方等に関し常に自治体議会について一律的なものと見なければならないわけではないようにも思われる。問題は、それがそれぞれの自治体における判断にどこまで開かれているかということではないだろうか。