2022.07.25 議会改革
第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─
2 議員報酬の性格
議員報酬は、一定の役務の対価としての給付であり、いわゆる「生活給」ではないとされている。もっとも、ほとんどの自治体では、月額で支給しているところ、これは、自治体議会の制度が始まって以来、歳費的・給与的な考え方で支給されてきたことや、国会議員との権衡を考慮したものであるともいわれる。
ところで、議員報酬の性格については、議員の地位・位置付けと大きく関係することになるが、この点が曖昧なままとされてきているところがあるものの、次第に、専門職と名誉職の間の中間的なものとのイメージが形成されてきたともいわれる。
例えば、自治体議会議員について、1956年5月22日の参議院地方行政委員会で、太田正孝自治庁長官は、次のように答弁している(6)。
「議員の生活方式が名誉職的であるか、あるいは専従職的であるかという問題につきましては、よく言われることでございますが、名誉職という規定は、昔の地方議会等においてはございましたが、無報酬の名誉職としては、私は今日の経済情勢から見てもできないのではないか。さりとて専従職として常勤的な役人のような立場にいくべきものでもない。従って、いわばその中間的なところにあるのではないかと思います。……性質論としては専従職と名誉職と対立的なものとすると、名誉職的の色彩が強い。しかし昔のいわゆる名誉職の、ただで働くという意味の名誉職ではないと私は思います。対立的に言えば、名誉職と専従職となる場合におきましては名誉職の側であるが、しかしいわゆる昔から言われている名誉職におきましては、給与を得ておらぬ場合が多うございますから、そういう意味ではない。まあ中をとったような性質じゃないかと、こう思うのでございます。」
また、1960年7月の東京都特別職報酬等審議会で憲法、行政法、政治学、行政学の主要な研究者が意見を述べており、それがその後の議論や見方に大きな影響を与えることになった。すなわち、議員の位置付けについては、「もはや戦前の名誉職的なものではなく、むしろ専門職的なものに近い」(田中二郎)、「名誉職的地位と常勤職員の中間にあり、最近は常勤に近い職務内容を持ち、議員職ともいうべき特殊な法的地位を形成している」(杉村章三郎)、「名誉職でも専門的常勤者でもない。やはり非専門的非常勤者であることを本質とする」(吉村正)、「名誉職的なものとはいえないが、執行機関と異なり専門職的なものではなく、また必らずしも常勤に近いものではない」(田上譲治)、「収入源を有しない名誉職の性格から離れ漸次常勤化あるいは有給職に近い姿をとりつつあるが、行動倫理としては、依然名誉職的色彩を帯びている」(辻清明)など、論者によりその位置付けには幅があるものの、これらを集約する形で専門職(有給職)と名誉職という対立軸上の中間的な存在との認識がもたれることになったといわれる。そして、その報酬についても、それぞれ「実質的職務に対する対価と考えるべきでその職責を適切に果す上にふさわしいものであるべきである」(田中二郎)、「報酬の内容が完全な生活給とはいえないので、一般職のベアに常に歩調を合わせ上昇させる必要はないが、現実の給与額からいえば生活給の意味を多く包含している」(杉村章三郎)、「国会議員の歳費は生活保障的給与の性質があるが、地方議会の会期は比較的短かいことから、生活保障的給与を支給する必要がない」(田上譲治)などといったものであった。
そして、高度成長を背景に、議員の報酬の引上げが全国各地で行われ、それに対して「お手盛り」批判が強まったことを受けて、対応に乗り出した自治省は、報酬の本質は単なる実費弁償的なものではなく議員の実質的職務に対する対価であるとの解釈を示し、職員給料との対比での改定を容認する姿勢を示すとともに、1964年12月12日の通知において「地方議会議員の報酬改定は一般職員の給与のように生計費の増大、民間賃金の上昇に相応してなされるべき性質のものではない」として、生活給としての性格を否定する路線を明確にするようになった(7)。