2022.07.25 議会改革
第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─
(13) コラム中の上記の平成22年最判も、費用弁償がなされる場合が、議員の重要な活動の場であることに着目するとともに、他の同種同規模の自治体の取扱いとの均衡にも言及している。
(14) 最判昭和39年7月14日民集18巻6号1133頁は、市が競輪事業開始10周年を記念するため、市議会議員全員に対し1人当たり1万円の記念品料を支給したことについて、社会通念上儀礼の範囲を超え、地方自治法204条の2に違反するとした。
(15) 佐藤功『憲法(下)〈新版〉』(有斐閣、1984年)682頁。なお、この規定をめぐっては、衆議院の議院法規調査委員会が起草した国会法案要綱にはそのような規定はなかったところ、GHQ民政局のJ.ウィリアムズによる「最高の官吏の俸給及び手当の金額よりも少なからざることを要する」との指示を受けて、国会法35条で「議員は、一般官吏の最高の給料額より少なくない歳費を受ける」とされたものであった。ちなみに、1920年時点での年額で比較すると、各省大臣8,000円、各省次官6,500円、各省局長5,200円に対し、帝国議会議員は3,000円であった。また、美濃部達吉『改訂憲法撮要』(有斐閣、1946年)383頁は、「歳費ハ俸給ニ非ズ、生活費ヲ給スルノ目的ニ非ズ、勤務ニ報イ及失費ヲ償フノ趣意ニ出ヅ」とするなど、実費弁償的な給付と解されていた。なお、国会法35条をめぐっては、近年は、立法論として議論も見られないではない。
(16) 総務省「令和3年地方公務員給与実態調査結果等」。
(17) 全国市議会議長会「市議会議員報酬に関する調査結果(令和2年12月31日現在)」。
(18) 町村議会実態調査結果。なお、議員報酬の町村長給料に対する割合は、全国平均で、議長は40.0%、副議長は32.5%、議員は29.5%となっている。
(19) 朝日新聞(熊本版)2010年3月19日「評価・公表…課題多く 五木村議 成果報酬制を導入 5対4の小差で可決」、西日本新聞2015年3月12日夕刊「長崎・小値賀町 町議50歳以下報酬増額 月18万円 30万円に 若手の立候補促す」参照。
(20) 堀内・前掲注(7)69〜 70頁参照。
(21) その概要は次のとおり。①各都道府県、市町村にそれぞれ知事、市町村長の諮問機関として審議会を設けることとし、都道府県・特別区・市は義務、町村は任意とする、②審議会は議員のほか知事・副知事・出納長ないし市町村長・助役・収入役の報酬について審議することとし、審議会が真に住民の代表となるよう人選の方法を規定する、③知事、市町村長はこれら報酬に関する条例を議会に提案する前に必ず審議会に諮らなければならないこととする。
(22) 最近における地方公共団体の議会の議員の報酬に関する条例の改正をめぐる世論の動向に鑑み、地方公共団体の特別職の職員の報酬等の額の決定について第三者機関の意見を聞くことによりその一層の公正を期する必要があると認められるので、速やかに措置されたく、命によって通知するとして、その要領として①地方自治法138条の4第3項の規定による都道府県知事の附属機関として、特別職報酬等審議会を設置するものとすること、②都道府県知事は、都道府県議会議員の報酬の額に関する条例を議会に提出しようとするときは、あらかじめ当該報酬の額について審議会の意見を聞かなければならないものとすること、③審議会の委員は都道府県の区域内の公共的団体等の代表者その他住民のうちから任命するものとすること、この場合、当該都道府県の議会の議員、長及び常勤の職員を任命することは避けること、などを示している。
(23) そのほかにも、審議会は、必要に応じ公聴会の開催、参考人の意見の聴取等の方法をとることにより、その審議に多くの住民の意見が反映するようにするとともに、答申に当たっては、審議経過、答申の理由等を明確にし、住民の理解が得られるよう特に留意すること、給与改定の際には、審議会の答申の額を上回って給与の額を決定し、又は改定の実施時期を繰り上げることのないよう十分配意することなども要請している。
(24)具体的には、市議会議員の報酬額は、大都市にあっては市三役給の平均給に相当する額、局・部長制を施行している市にあっては局・部長給に相当する額、課長制を施行している市にあっては課長給に相当する額をもって議員の報酬基準額とすることを原則とし、これによられない都市については、その都市の財政状況等を考慮して係長給に見合う額を下らない額とするものであったようである。
(25) なお、議員報酬を長の給料月額の比率で算定した理由については、長の給料額と議員報酬との格差をどう考えるかということとなり、これについては、常勤職である長と非常勤職である議員との職務形態の差異(職務の量的な差)を考慮し、両者の年間における職務遂行日数(議員については、議会活動日数等議員の職務遂行に費やす日数)を対比した比率によることが適当であると考えたとされている。
(26)以上の指摘については、 全国町村議会議長会 町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会「町村議会議員の議員報酬等のあり方最終報告」(2019年3月)。
(27) 例えば、収益方式は、住民の納得を得やすいものの、貢献度を客観的に指数化するのは困難であり、積算方式は、実際の議会活動を反映するものであるものの、その範囲や活動日数をどう定め、何をもって基準額とするのか、その客観性が担保できるかなどの問題があり、比較方式は、類似団体といっても議会を取り巻く環境は異なり、議会や議員の活動実態等を十分に反映したものとはならないなどといったことが論じられているようである。なお、この関係では、会津若松市や神奈川県葉山町の先進的な検討・試みなどが注目を集め、影響を与えているといわれる。
(28) 疾病や自己都合等により一定期間、議会の会議を欠席したときに減額又は停止するのが159団体(制定団体の76.8%)、懲罰により出席停止処分を科せられたときに減額又は停止するのが16団体(7.7%)、逮捕・拘留その他の身体の拘束を受けたときに減額又は停止するのが92団体(44.4%)、その他が26団体(12.6%)となっている。なお、一定期間の欠席に「出産」を含めているのが51団体(32.1%)、除外しているのが70団体(44.0%)、その他が38団体(23.9%)となっている。
(29) なお、JIJI.COM 2022年4月30日よれば、条例を制定しているのは12都府県議会としており、増加傾向にあるようだ。
(30) 議員としての活動は広範かつ多様であるが、その義務でもある本会議、委員会等の議会活動に出席しない者が、議会外で議員としての活動を行うことをどう評価するかの問題などもありうる。
(31) 長期欠席の場合の減額・支給停止は、会議規則上の正当事由があっても長期の欠席について議員報酬の減額・支給停止を行うものであり、他方、正当な理由のない欠席については、一定の手続の下で懲罰の対象となりうるほか(地方自治法137条)、正当な理由なく招集に応じない場合にはその議会の会期が属する月の議員報酬を支給しない旨を条例で規定するところもある。
(32) 例えば、久留米市議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例は、刑事事件での逮捕・勾留等の期間とは別に、議員が刑事被告人として起訴された場合には、判決が確定する日までの期間、定例会又は臨時会の会期の初日若しくは末日に開催される会議又は委員会のいずれかを欠席したときはその日の属する月の議員報酬、あるいは一月につき会議・委員会の総日数の2分の1を超える日数の欠席をしたときはその月の議員報酬の支給を停止するとしている。
(33) 例えば、議員の活動は広範多岐にわたるものであるところ、被告が新任期中に議員活動を行い、これにより市に利益をもたらしたことがあるとは到底認められないと断言し、期間内の1日の全生活を議員の報酬と対価性をもつ議員活動と評価することは著しく正義に反するとし、それにより市が利益を得たなどというのはほとんど通常人の理解の限度を超えるといった、穏当性を欠くような言い方がなされているほか、その時点では無罪の推定が働き、かつ、当選無効の効果が遡及するにしても議会の意思決定やこれに基づいてなされた行政機関の行為は無効とならないと解されているにもかかわらず、当選無効となった者が関与してなされた議会の決議等に瑕疵(かし)があるとの実質は変わらないとか、被告が提案者として名を連ねた議案についてその参加の限りにおいて瑕疵があるものとなったとまであえて述べていることなどには疑問がある。被告によって上告されたものの、最高裁の判決までには至らなかったようだ。
(34) 選挙運動の総括主宰者、出納責任者等が買収等の選挙犯罪を犯して刑に処せられた場合の連座制による当選人の当選無効については、その効果は当選の効力等に関する訴訟で原告敗訴の判決が確定した時などから生じるものとし(公職選挙法251条の5)、地方自治法128条もそれまでは議員の職を失わないとしている。当選人の選挙犯罪による当選無効の場合には、本人によるものだけにそれよりも強い制裁を科すものといえる。
(35) 当選無効の効果がどこまで遡及すると見るかはなお議論があるだけでなく、議員報酬請求権まで影響を受けるとしてもその継続的な事実的法律関係を重視し、返還請求権は生じないとしたり、実務の立場のように、報酬請求権が消滅しても、不当利得の問題として処理し、失職した者の役務の提供により受けた自治体の利益と報酬等により失職した者の利益に差がある場合に不当利得返還請求権が生じるとすることもありうる。そして、後者によっても、行政実例は「一般的には、その勤務と給付は均衡していると見られるのが通常であり、その場合は、不当利得返還請求権も生じないことになる」(昭和41年5月20日行政実例)としているところであり、不当利得返還請求権が生じるのは例外的な場合に限られることになる。
(36) 1961年に「地方議会議員互助年金法」が制定され、議員及びその遺族の生活の安定に資することを目的とした互助年金制度が発足したが、互助会は任意設置・任意加入等とされていたところ、1962年に地方公務員等共済組合法の制定に伴い、同法に「地方議会議員の年金制度」の章が設けられ、強制設置・強制加入の都道府県議会議員共済会、市議会議員共済会、町村議会議員共済会が設立された。共済給付金の給付費は、会員の掛金のみをもって賄うことを原則としながらも、掛金のみをもって賄うことが困難な場合には、その不足分を自治体が負担することとされたが、共済会の給付財政が急激に悪化したことに伴い、1971年の法改正により給付に要する費用の自治体負担(公費負担制度)が導入されるなどした。その後、定数削減による会員減や運用利回りの低下等と制度の成熟化による受給者増により地方議会議員年金財政は、悪化の一途をたどることとなった。
(37) 地方公務員等共済組合法の一部を改正する法律(平成23年法律56号)により2011年6月1日をもって地方議会議員年金制度は廃止され、現職議員への一時金の支払、受給資格のある現職議員が退職した際の年金支払等の措置が講じられた。
(38) 厚生年金の加入要件は、適用事業所で働き、労働の対価として給与や賃金を受けるという使用関係が常用的であることが必要とされており、自治体議会の議員の実態がどの程度これを満たすかどうかがポイントとなるが、政府の側からは、現行法では自治体議会議員は厚生年金の適用事業所に使用される者(被用者)には当たらないだろうとされ、労働時間要件にも当たらないことになるとして、法的手当が必要との指摘がなされている。第200回国会・2019年10月11日衆議院予算委員会(会議録2号)及び2019年11月19日衆議院総務委員会(会議録3号)での高市早苗総務大臣の答弁など。
(39) 第192回国会・2016年10月25日参議院総務委員会(会議録3号)での高市早苗総務大臣の答弁など。
(40) 第200回国会・2019年10月8日衆議院本会議(会議録3号)での安倍晋三内閣総理大臣の答弁など。
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