2022.07.25 議会改革
第30回 議員報酬を考える─議員報酬をめぐる議論と動き─
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
自治体議会議員のあり方を考える上でも重要となってくるのが「議員報酬」であるが、これをめぐっては従来から様々な議論や動きが見られる。議論や問題が錯綜(さくそう)しており、論じにくいところもあるが、議員の地位・性格などにもかかわる本質的な問題でもあることから、議員報酬の問題について、概観し、考えてみたい。
1 議員報酬の歴史
自治体議会の議員には、議員報酬等が支払われることが地方自治法で規定されている。すなわち、同法203条は1項で議員報酬を支給しなければならないと規定するとともに、同条2項・3項で費用弁償と期末手当を支給できると規定しており、これらの額や支給方法については条例で定めるものとされている(同条4項)。
戦前においては、市町村会と府県会の議員については、名誉職とされ、報酬は支給されていなかった。すなわち、1888年制定の市制町村制ではともに16条で「議員ハ名誉職トス」とされる一方、75条では「名誉職員ハ……職務取扱ノ為メニ要スル実費ノ弁償ヲ受クルコトヲ得」と規定されていたが、1911年の全部改正の際に給料・給与の規定が整理され、費用弁償の対象として市町村会議員も明記され、疑問の余地なく費用弁償を受けることになった。
他方、府県会議員については、1890年制定の府県制では、5条で名誉職と規定されるとともに、55条において「府県会議員ニハ旅費及滞在手当ニ限リ之ヲ給スルコトヲ得」とされ、滞在手当には上限が設けられていたが、1899年の改正で市町村会議員と同様に他の名誉職と一緒に費用弁償の対象とされた。
戦後となり1946年の第1次地方制度改革により、市制・町村制・府県制等が改正され、名誉職制度が廃止されるとともに、議員については、他の名誉職であった職などとともに、報酬と費用弁償の対象とされたが、報酬については、「報酬ヲ給スルコトヲ得」とされ、義務とはされていなかった(1)。なお、その際、報酬額・費用弁償額・支給方法については、条例事項とされた。これに対し、1947年制定の地方自治法では、他の非常勤の職員とともに203条に報酬と費用弁償の規定が設けられ、報酬については、「支給しなければならない」とする義務規定とされるに至った。
1952年の地方自治法の改正では、203条1項に「その他普通地方公共団体の非常勤の職員」が加えられ、203条は「非常勤の職員」を対象とする概括的な列挙規定といった位置付けとされることになる。また、1956年の地方自治法の改正では、議会の議員に対する期末手当の支給の途(みち)を開くとともに、議員以外の非常勤の職員に対する報酬については、その勤務日数に応じて支給するとの原則が規定されることとなった(2)。
非常勤の職員に対する報酬等を定める203条では、常勤の職員に対する「給料」とは区別されるとともに、「非常勤の職員」とされるものの中にはかなり性格を異にする者が含まれており、とりわけ「議会の議員」は異質の存在とされ、全国三議長会からは、非常勤の職員と一緒に規定するのは議員の位置付けとして適切ではないとされ、その改正が要望されることにもなった(3)。
そして、これを受け、2008年の地方自治法改正で、議会の議員と非常勤の職員とで規定が分けられ、議員については203条で規定されるとともに、「議員報酬」に改められた(4)。
議員報酬については、このような変遷を経て、現在の規定となっているが、「議員報酬」となったからといって「報酬」であることには変わりはないともされている(5)。