2022.06.27 政策研究
第27回 多数性(その1):関係住民と関係自治体
住民の貞操性と自治体の不貞性
現実には、一人の住民は多数の自治体と関係を持っている。民衆や人民や人口(population)という人間集合で捉えても同じである。しかし、住民としての関係を持つのは、一つの自治体に限定するという貞操性の観念が存在する(図4)。正確にいえば、一つの市区町村とそれを包括する一つの都道府県とに限定する。自治体は多数の住民と関係を持っているので、その意味では、自治体には貞操性の観念はない。正確にいえば、自治体は多数の人間と関係を持つが、そのうちの一定部分に対しては住民としての関係性を有するとし、それ以外の部分に対しては住民としての関係性を否定する、という意味での貞操性はある。特に、他の自治体と住民としての関係を持つ人間に対しては、当該自治体としては、住民としての関係を持ってはならない、という意味での貞操性はある。しかし、自治体は同時に多数の住民と関係を結ぶことができるという意味では、貞操性はない。つまり、ある住民は自治体を独占することはできない。ところが住民は一つの自治体としか住民としての関係を持てないので、住民には貞操性が求められている。つまり、ある自治体はある住民を独占的に所属させる。住民から見れば、特定の唯一の自治体に対して帰属する。
図4
一人の住民は、同時に複数の自治体と事実上の関係を持つとしても、公式上で住民としての関係を持てるのは一つの自治体に限る、というのが貞操性である。自治体と住民との関係性は、居住関係という「住所」(=生活の本拠)を有するという特殊な関係で結ばれている(地縁性)。それ以外の関係性は、住民としての関係には含まれない。そして、住民としての関係性を一つの自治体に限るという住民の居住関係性(地縁性)は、住所が単一であるということを意味している。複数の自治体に住所を持ち、それゆえ、複数の自治体の住民になるという、「二重の住民地位」は不貞化されている。