2022.06.27 議会改革
第29回 自治体議会と多様性(2)
この点で注目されたのが、中津川市議会代読拒否訴訟・名古屋高判平成24年5月11日判時2163号10頁である。この事件は、市議会議員であった者が、市に対し、その在職中、手術により喉頭を切除し、自らの肉声で発言することが困難になったため、市議会において第三者の代読による発言を求めたところ、議会の側がこれを認めず、パソコンを用いて発言するよう求めたため、発言方法を決定する自己決定権等を侵害されたなどとして、市及び同市の市議会議員らに対し損害賠償を求めたものである。これについて、同判決は、議員は、議事機関である議会の構成員として、本会議や委員会等における自由な討論、質問・質疑等を通じて、住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を、自治体の意思形成・事務執行等に反映させる役割を担っているのであるから、表現の自由及び参政権の一態様として、議会等において発言する自由が保障されており、議会等で発言することは、議員としての最も基本的・中核的な権利というべきとした上で、議会が、議員の当該議会等における発言を一般的に阻害し、その機会を与えないに等しい状態を惹起(じゃっき)するなど、議員に認められた権利自由を侵害していると認められる場合には、「法律上の争訟」に当たり司法審査の対象となるとした。そして、市議会(議会運営委員会)の検討・対応の過程における各行為のうち、代読を認めないだけなく他の発言方法を具体的に審議するなどのことが全くなされていなかったこと、音声変換装置付きパソコンの使用を認めたものの当該議員がパソコンの操作ができるかどうかの調査・検討が行われていなかったことは、原告の議会で発言する権利自由を侵害するものであるとし、それらの期間になされた対応は違法であるとして(21)、市に対する請求を認容(原判決の10万円を300万円に変更)する一方、市議会議員らに対する請求を棄却した一審判決を支持した。
障害のある議員に、その基本的・中核的な権利を行使するために議会の側に一定の作為義務を認めたものと見ることができ、裁判例としての射程はともかく、法律上求められるようになっている合理的配慮や対応の違法性を判断する上で参考になるものといえる。
他方、会議規則や条例には、直接・間接に障害者に対する制限となる規定が存在しているといわれ、当事者からの要求などを受け、徐々にその改善が進められてきているほか、自治体議会では、差別解消法に基づく対応要領(22)等の策定や、差別解消条例、手話条例など障害者にかかわる議案も増えてきており、自治体議会における障害者への対応はそれなりに進んできている。
しかしながら、その取組みはなお不十分なものにとどまっている面があることも否めない。例えば、障害者が議会の審議を傍聴する機会が増えてきている一方で、視覚障害のある傍聴者の白杖(はくじょう)を取り上げようとする事件が発生したり、精神障害者の傍聴を認めない規定が規則に残っているところがあるという。関係団体がその見直しを求めているが(23)、全国都道府県議会議長会の標準都道府県議会傍聴規則では、傍聴席に入ることができない者として、「杖(つえ)」を携帯している者が規定されている。インターネットで検索すると、傍聴できない者として、精神障害者などを規定している傍聴規則はなお少なくない(24)。
何らかの改善が必要だろう。
立法の場に障害のある議員が加わることで、福祉政策が徐々に前進してきた面もあるのであり、また、障害のある議員の存在により、これまでの常識が変わったり、制度・慣行が見直されたり、人々に様々なメッセージを伝えることにもなる。そして、障害のある議員がいることは決して特別なことではなく、通常のことと捉えられるようになっていくことが大事ではないだろうか。