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2022.06.27 議会改革

第29回 自治体議会と多様性(2)

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 選挙運動規制が多岐にわたり、その規制の仕方が詳細かつ複雑であることは、多様な人が選挙に挑戦することをためらわせる一因となっていることは想像に難くない。また、選挙運動規制は、選挙のための共通のルール・競争の土俵を設けるもので、誰にでも等しく適用されるものというが、実際には、現職に有利に働き、新人にとっては不利となることが少なくないといわれる。その典型が、短い選挙運動期間と事前運動の禁止といわれ、選挙運動と政治活動の区分は相対的でその境界には曖昧なところがあることなども相まって、普段から議員の政治活動として有権者と接する機会の多い現職有利となっていることが指摘されている。
 選挙運動については、インターネットの発達などによりその形も変わりつつあり、ウェブサイト等を利用した選挙運動は候補者・政党以外の者にも認められ、電子メールを用いた選挙運動は候補者・政党等に限り認められるようになった。ただ、それは、ウェブサイトやメールが文書図画に該当するとして現行の文書図画の頒布や掲示の制限が適用されるとの前提に立つものであり、情報通信技術の発達に必ずしも対応するものとはなっていない。また、選挙運動としてはプリミティブな手段ともいえるビラの頒布について、都道府県議会と市議会の議員の選挙で認められるようになったのは2019年3月から、町村議会の議員の選挙については2020年12月からであった。
 そもそも、現代において、法定外の文書図画の頒布等を規制する必要性はどの程度あるといえるのだろうか。先に触れたとおり、候補者側と通じずに一般の人が選挙運動として紙の文書図画を頒布できないというのは果たしてどこまで合理的なのだろうか。そればかりではなく、それは、例えば言語障害等のある人にとっては、選挙での自己の意思表明の重要な手段を奪われることにもつながりかねない。
 その点について争われたのが、玉野裁判であり、言語障害のある女性が、1980年の衆参同日選挙で、候補者の演説会に参加し、共鳴し、後日、その後援会の依頼を受けて候補者のビラ・パンフレット45枚を近隣8名方に配布したことが、公職選挙法142条1項の禁じる法定外選挙運動用文書の頒布に当たるとされ、逮捕・起訴されたものである。訴訟では、公職選挙法の規定の憲法適合性なども争われたが、第一審(和歌山地御坊支判昭和61年2月24日判タ827号62頁)では、罰金1万5,000円の有罪判決と公民権停止2年が言い渡され、控訴審の大阪高判平成3年7月12日判タ827号56頁は、公職選挙法が認める選挙運動方法に照らすと、言語障害者が単独で街頭での個々面接や電話により選挙運動を行うことが事実上不可能な場合があり、選挙運動に関し言語障害者と健常者との間に実質的不平等が存することは否めないとしたものの、言語障害者には、筆談による投票依頼や健常者とともに選挙運動を行う途(みち)も残されているのであり、仮に言語障害者には公職選挙法の規定が適用されないとすると、言語障害者は無制限に文書を頒布できることとなり、かえって健常者との権衡を失することになるなどとして、公職選挙法の規定を言語障害者に適用しても、憲法14条1項、21条1項に違反しないとした。女性は、最高裁に上告中に死亡し、裁判は終結した。
 このように、現行の選挙運動規制は、一般の人々の選挙運動の自由を制約しているだけでなく、様々なハンディキャップを抱えている人の選挙運動の自由を実質的に奪ってしまうことにつながりかねないのであり、その不均衡・不平等を是正するだけでなく、規制そのもののあり方を考え直すことなども必要となってきているのではないだろうか。

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