2022.06.27 議会改革
第29回 自治体議会と多様性(2)
(2)選挙運動
選挙運動は、選挙制度の重要な構成要素であり、自由選挙の原則かつ政治的表現の自由にかかわるものであるが、公職選挙法による選挙運動の規制は、諸外国と比較してもかなり厳しく、「べからず選挙」などと呼ばれている。その規制は、広範かつ詳細を極め、その種類としては①選挙運動の時期の規制、②選挙運動手段の規制、③選挙運動費用の規制、④選挙運動主体の規制がある。
このうち、①については、選挙運動は、立候補の届出終了後から当該選挙の期日の前日までの間において認められ、選挙運動の始期より前の運動は事前運動として一切禁止するものだ。そして、選挙期日の公示・告示の日は、衆議院議員選挙が選挙期日前少なくとも12日前まで、参議院議員選挙が同17日前まで、都道府県議会議員選挙と政令指定都市議会議員選挙が同9日前まで、それ以外の市議会議員選挙が同7日前まで、町村議会議員選挙が同5日前までとされるなど、選挙運動の期間はかなり短い。
また、②としては、公職選挙法上認められた種類(葉書・ビラ・ポスター・ウェブサイト等)・枚数等の範囲内での文書図画以外は一切の頒布・掲示等が制限され、個別訪問は全面的に禁止、演説会は、個人演説会、候補者届出政党が行う政党演説会、衆議院名簿届出政党等が行う政党等演説会以外は禁止、街頭演説についてはその方法等につき制限されるなど数多くの制限が設けられている。
④の主体の規制としては、公務員等の地位利用による選挙運動等の禁止、教育者の地位利用による選挙運動の禁止、18歳未満の選挙運動の禁止などがあるが、未成年者の選挙運動については、本人保護のためその使用につき制限することには合理性があるとしても、未成年者自身の選挙運動を罰則により禁止するというのはどこまで合理性があるのか疑問も呈されている(5)。
選挙運動の規制の目的について、政府は、選挙運動を無制限に自由なものとした場合には、その選挙が財力、威力、権力等によってゆがめられるおそれがあることから、選挙の公正を確保するために、選挙運動に一定のルールを設けて、そのルールに従って選挙運動が行われるようにするものであるとしている。
確かに、選挙においては、公正さが確保されることが重要であり、そのためには選挙運動に関するルールも必要となるが、日本の選挙運動規制は、歴史的な性格を帯びたものであり、必要最小限のものにとどめるといった発想に乏しく、ルールというよりは規制色の強いものとなっている。
すなわち、例えば、戸別訪問の禁止については無産大衆の選挙活動を警戒しそれを制約するために導入されたものであり、文書図画の規制については戦後の物資不足等の経済事情を理由に強化されたものであるなど、その多くが、1925年の普通選挙の導入に際し設けられ、その後強化されてきたものであるという、それぞれの時代の政治状況・社会状況等を背景とした歴史的な経緯・性格をもつものである。そして、それらの中には、戦後の民主化の流れの中で一時規制が緩和されたものもあったものの、すぐに復活することになった。結局、その過去の規制の目的・根拠や現在における規制の妥当性が十分に再検討されないままに維持されてきているものも少なくないのであり、それを支える立法事実の変化について必ずしも十分な考慮が払われてきているとは言い難い。しかも、選挙運動の見直しについては、常に政治的な利害得失が絡むことになり、既存の政治勢力は、見直しに積極的に取り組もうとしない傾向があるともいわれる。
その結果、一般の国民が主体的に行うことができる選挙運動が大幅に限定され(6)、国民は基本的に選挙運動の受け手の立場に置かれることになるとともに、選挙運動は候補者等が行う特別のもの、煩わしいものなどといった意識が定着するようになったといわれる。そして、それが日本独特の選挙風土の形成につながってきただけでなく、逆に迷惑論などとして選挙運動の規制の根拠として持ち出されるようにもなっている。また、そのような古色蒼然(そうぜん)とした選挙運動規制は、選挙のイメージや雰囲気を暗いものとし、国民の関心や主体性を失わせ、選挙から国民を遠ざけることにもつながっているとの批判もある。