2022.06.27 議会改革
第29回 自治体議会と多様性(2)
ハラスメントは、意識的・無意識的に特定・不特定多数を問わず不快な思いをさせる、苦痛を与える、居心地の悪さを感じさせる行為のことを指し、嫌がらせ、いじめ、人権侵害となるおそれがあるものであり、組織にとってリスクとなるものである。議員によるハラスメントは、代表としての議員の地位・信頼を損なうものであり、また、議員へのハラスメントは、議会の活動や議員のなり手にも影響を及ぼすことになる。ハラスメントは、議会の多様性を阻み、その機能や透明性を低下させる要因となるものといえる。その範囲や境界については微妙なところがあるとはいえ、議会として、そして社会として、その防止にしっかりと取り組み、その背景ともなっている政治的な風土や意識を変えていく必要がある。それなしには、議会の機能や政治のレベルの向上もおぼつかない。
(1) 衆議院選挙訴訟・最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁、最大判平成11年11月10日民集53巻8号1704頁など。
(2) 自治体議会議員の選挙制度は、国の法律で規定されているが、これは、憲法93条2項がその直接選挙について定めていることに基づくものであるとともに、憲法92条の「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」に該当するものとして法律で規定されているものである。自治体議会議員の選挙制度について、どこまで法律で定め、あるいはどこまで条例に委ねることが可能なのかは十分に議論されているわけではないが、その基本について法律で定めるというのは、比較法的に見ても、立憲主義的観点からも、妥当性があるといえる。他方、現在も、政令指定都市以外の市・町村の議員選挙について条例による選挙区の設置を認めているところであり、例えば、いくつかの選挙制度を選択肢として規定し、その中から自治体が条例で定めるようにすることなども理論的には可能だろう。ただ、その場合でも、その選択肢や枠については国会が法律で定めることになる。
(3) 総務省に設置された地方議会に関する研究会、地方議会・議員に関する研究会などの報告書でも、選挙制度のあり方として、制限連記制が取り上げられている。
(4) 1945年の衆議院議員選挙法の改正で大選挙区制限連記制が導入され、定数3人以下の場合は単記制、定数4人以上10人以下の場合は2人まで、11人以上の場合は3人まで連記できることとされた。しかし、1946年の衆議院総選挙では、同一選挙人が2党以上の候補者(特に保守党と革新党)を併記した例が多かったことなどもあって、1947年の改正で単記制に戻された。
(5) 公職選挙法137条の2は、1項で18歳未満の者は選挙運動をすることができないとするとともに、2項で何人も年齢18歳未満の者を使用して選挙運動をすることができないとし、それらに違反した場合には239条1項1号により1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処すとしている。この規定は1952年の改正で設けられたものであるが、未成年者は選挙権を有しないとはいえ、主権者である国民であり、未成年者であるがゆえに選挙運動を制限される理由は、未成年者の保護といったパターナリズム以外には見いだし難く、そうであれば、選挙運動をした未成年者を上記のように重く処罰することの合理的な説明がつかなくなる。児童の権利に関する条約12条が児童の意見表明権の確保を締約国に義務付け、かつ、2022年に制定された「こども基本法」でも基本理念としてうたわれていることも忘れられてはならない。不思議なのは、このような合理性を問われうる規制が、インターネット選挙運動の解禁により未成年者がその規制に違反する可能性が高まったり、選挙権年齢の引下げにより高校生による選挙運動が取り沙汰されたりしたにもかかわらず、違反しないよう注意を喚起するばかりで、肝心の規制の問題性や見直しがあまり論じられなかったことである。
(6) 候補者等以外の一般の国民が全く自由に行うことができる選挙運動は、候補者のためにする電話による選挙運動と個々面接による選挙運動に限定されてきたが、2013年のインターネット選挙運動の解禁により、これにウェブサイト等(ホームページ、ブログ、SNS、動画中継サイト等)による選挙運動が加わった。
(7) 杣正夫『日本の選挙政治』(青木書店、1963年)25頁など。なお、日本の供託金制度は、イギリスの制度を参考にして導入されたものであったとされるが、その金額や機能は大きく異なるようになっている。
(8) 例えば、町村長選挙の供託金は1962年の改正で、町村議会議員選挙の供託金は2020年の改正で導入されたものであるが、その導入前に泡沫候補の濫立が問題となっていたという事実はなく、選挙公営の拡充等とセットで機械的に導入された面があるとも指摘されている。
(9) その一方で、もともとは「士業」らの売名を想定していたものの、近年はユーチューバーなどが知名度アップや広告収入目当てで出馬する例が増えており、新たなタイプの商業利用をどう防ぐのか議論が必要との指摘もあるようだ。河北新報ONLINE NEWS 2021年10月12日「立候補の『供託金』、日本は高すぎる? 海外の選挙と比べてみた」参照。
(10) ただし、「州法においては、典型的には、立候補届出手数料(filing fees)を州若しくは政党又はこれらの双方に対して納め、又は候補者が立候補する地域において一定人数の署名を集めることが必要とされている」(平井伸治「米国における選挙・政治資金事情(7)」選挙50巻5号(1997年)9~14頁)との紹介もある。
(11) 韓国でも、1989年に、憲法裁判所が選挙供託金を違憲としたのを受けて、供託金の引下げなどが行われている。
(12) 選挙供託金制度について争われ、裁判所が判断を示したものとして、①神戸地判平成8年8月7日訟務月報44巻6号934頁、その控訴審である大阪高判平成9年3月18日訟務月報44巻6号910頁、②東京地判平成17年8月31日、③2件の東京高判平成30年2月28日などがあり、①は県議会議員の選挙の候補者、②は区議会議員の選挙の候補者が提起したものであった。
(13) 杣・前掲注(7)26頁によれば、戦前にも、供託金の引下げの動きや制度撤廃の議論があったという。他方、2009年の第171回国会では、衆議院に、国会議員の供託金の額及び没収点を引き下げるための公職選挙法改正案(選挙区300万円→200万円、比例600万円→400万円、衆議院小選挙区の供託金没収点10分の1→20分の1、参議院選挙区8分の1→16分の1)が提出され、委員会の審査では、選挙供託金制度には売名目的の候補者の濫立を防ぐという合理性があるものの、日本の供託金が諸外国と比べて高額であり、公職選挙法や政治資金規正法の政党要件を満たす政党の届出候補者であっても多くの候補者が供託金を没収されているという近年の国政選挙の実態と選挙供託金制度の趣旨に鑑み、供託金の額及び没収点を引き下げるべきではないかとの問題意識が示されるなどした。法案は、衆議院で可決されたが、衆議院の解散により廃案となった。
(14) 障害者の権利に関する条約29条。その(a)(ⅱ)では「障害者が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票によって投票し、選挙に立候補し、並びに政府のあらゆる段階において実質的に在職し、及びあらゆる公務を遂行する権利を保護すること。この場合において、適当なときは支援機器及び新たな機器の使用を容易にするものとする。」としている。
(15) このほか、2022年には、障害者による情報の取得・利用や意思疎通に係る手段について可能な限り障害の種類・程度に応じた手段を選択できるようにすることなどをうたった「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」も制定されている。
(16) NHK福祉情報サイト・ハートネット「社会を良くしたい障害者議員たちの奮闘」(2020年3月4日)による。ちなみに、令和3年版の障害者白書によれば、障害者の概数は、身体障害者436万人、知的障害者109万4千人、精神障害者419万3千人であり、国民のおよそ7.6%が何らかの障害を有していることになるとする。また、毎日新聞2017年12月24日朝刊によれば、都道府県議会と政令指定都市の議会で障害をもち活動する議員の総定数に占める割合は約0.2%であったとする。
(17) 振り返ってみると、過去にも障害をもつ国会議員は存在しており、戦前の帝国議会にまで遡ると、第1回帝国議会の衆議院議員選挙(1890年)で当選し、1897年に緑内障で視力を失った高木正年氏、1942年の衆議院選挙の沖縄で当選した聴覚障害者の湧上聾人氏などがおり、戦後の国会でも、1977年の参議院全国区選挙で当選し、初の車いす国会議員といわれ、1996年の衆議院小選挙区選挙でくら替えして当選し、1999年の小渕恵三第2次改造内閣等で郵政大臣を務めた八代英太氏、1989年の参議院比例代表選挙で当選し初の視覚障害をもった国会議員といわれた堀利和氏などがいる。
(18) 参議院では、就労や通勤中の介助については公費による介護サービスの対象とはされていないことから、重度の障害のある議員の議員としての活動中の介助の費用負担が問題となり、当面、参議院側がその費用を負担することとなった。
(19) NHKハートネット・前掲注(16)。もっとも、再質問の際の聞き取りに要する時間も質問時間とみなされるため、質問時間の多くがそれに費やされることもあるという。
(20) NHKハートネット・前掲注(16)。
(21) 他方、議会運営委員会から、一般質問は音声変換装置付きパソコンで行い、再質問等は事務局職員による代読を認めるという折衷案が提示されて以降は、議会での発言を阻害していた議会の側の対応は解消し、格別の支障はなくなったと評価し、議会の側の対応は違法ではないとしている。また、原告の希望する発言方法を一貫して認めなかったことが障害者の障害補助手段を選択する権利(自己決定権)を侵害するとの主張については、議員の議会における発言方法自体は、基本的に議会の自主性・自律性に委ねられるべきもので、このことは健常者か障害者かによって区別されるものではないとし、発言に格別の支障がなくなっている以上は違法性は認められないとした。ただ、議会運営委員会での一連の検討・対応において代読を認めないとしたことの理由の合理性や理由の変遷などについては各方面から疑問が呈されており、議会の側の裁量が認められるとしても、その対応のあり方として、最後まで本会議での代読を正面から認めなかったことの問題性が問われうる事例であったともいえる。
(22) 差別解消法10条1項の規定に基づいた「議会事務局における障害を理由とする差別の解消の推進に関する職員対応要領」など。
(23) 例えば、特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議・障害者欠格条項をなくす会の「地方議会における対応要領策定および標準規則改正等に関する要望書」など。
(24) 中には、財産区議会傍聴規則ではあるが、「狂人」といった不穏当な言葉を用いているものも見受けられる。
(25) なお、それに先立ち、2019年の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が制定されたことに伴い、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、新たにパワー・ハラスメントに関する規定が設けられている。すなわち、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とされるとともに、相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止、国、事業主及び労働者の責務なども規定された。併せて、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」も改正され、セクシャル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントについても、相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止、国、事業主及び労働者の責務等の規定が追加されている。
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