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2022.06.27 議会改革

第29回 自治体議会と多様性(2)

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慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司

 今回も、前回(第28回)での考察も踏まえつつ、引き続き、自治体議会と多様性の問題について取り上げ、その点から、選挙制度その他の選挙環境、障害のある人への配慮、ハラスメント問題などに関し考えてみたい。

5 多様な人が立候補・当選しやすい選挙環境の整備

 多様な人が議員となれるようにしていくためには、やはり選挙制度のあり方にも目を向ける必要があるだろう。
(1)選挙制度
 選挙制度においては、形式的な平等が重視され、被選挙権が認められる者に対しては、誰にでも同じように開かれ、誰でも同じように取り扱うことになるのであり、その点では、性別や年齢などに対しても中立的なものになっているといえる。ただ、現実の社会や政治の状況などを考慮するならば、制度やそのあり方により女性や若者などの進出に有利・不利といったことを生じうることも否定できないところである。このようなことから、議会の構成の多様性を確保するために、女性や若者など多様な人が選出されやすいとされる選挙制度の導入が論じられることもある。
 例えば、一般に、女性や若者など多様な人が選出されやすいのは比例代表制であり、それらの人が選出されにくいのは小選挙区制といわれることがある。確かに、名簿式比例代表制の場合には、政党の判断・対応によることになるものの、特に拘束名簿式については、これまでにも女性、障害者などが当選してきた。これに対し、小選挙区制については、1人しか当選しないことや、現職有利となりやすいことなどもあって、多様な人が新人として立候補や当選をしにくいともいわれるが、それは、多分に現在の政治・社会の状況を前提とするものであって、本来的にそのような意義・機能等をもつわけではない。
 そもそも、代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民や住民の意見や利害が公正かつ効果的に国政や地方行政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請なども考慮しながら、それぞれの国の事情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではなく(1)、およそ完全な選挙制度といったものなどないといえる。何を重視してどのような選挙制度とするかは、憲法の枠内で立法者がその裁量に基づいて判断することになるのであり(2)、そこでは、多様な人の当選しやすさは考慮要素の一つにとどまらざるを得ないところがある。
 なお、市町村選挙や、指定都市・都道府県の選挙の一部で採用されている、いわゆる大選挙区制は、小選挙区制と比べれば、女性や若者など多様な人が当選しやすいともいわれるが、現実にはそのようにはなっていない。その背景には様々な政治的・社会的・経済的な要因が絡んでいると思われるが、制度による対応の難しさや限界も示しているといえる。ただ、仮に現在の制度を前提としつつ、少しでも多様な人が選出されやすいように工夫をするのであれば、例えば大選挙区では制限連記制の導入なども考えられるのではないかと思われる(3)
 制限連記制は、戦後第1回の衆議院選挙で採用されたものであり(4)、有権者がその選好に基づき複数の候補者に投票できることになることで、より多様なニーズが反映でき、現在より多様性を確保できるほか、候補者間の緩やかなグループ化が促進されることで、有権者にとって判断根拠となる情報が整理され、実効的な選択が可能となるとの見方がある。その一方で、候補者を複数選ぶということでは有権者の情報コストが増える面があるほか、有権者の行き過ぎた戦略的投票行動や無責任な投票行動(2票目以降のドンキー投票)などを招く可能性もある。
 そのメリット・デメリットや制度的工夫についてしっかりと検討する必要はあるものの、現行の制度を大きく変更するものではないということでは、現実的な選択肢ともいうことができるが、自治体議会議員の選挙制度の改革の動きは鈍い。逆に、多様性をいいながら、何もしないのであれば、これまでと変わらない状況が続くだけのことになりかねない。

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