2022.05.25 議会改革
第28回 自治体議会と多様性(1)
【コラム:若者の住所と選挙】
若者の低投票率の一因として、実際に住んでいる住所地で投票できないケースがあることも指摘されている。
すなわち、日本国民で18歳以上の者は国会議員の選挙権、当該者で引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者はその属する自治体の議会の議員及び長の選挙権を有するが、選挙人名簿への登録については、引き続き3か月以上登録市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うものとされている。この選挙人名簿の登録は、3月・6月・9月・12月の年4回、それぞれの月の1日に要件を満たした者について行われるほか、選挙の公示日(告示日)の前日にも行われる。なお、その場合の住所について、判例は、茨城大学星嶺寮事件・最大判昭和29年10月20日民集8巻10号1907頁で「およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指す」との判断を示したほか、「客観的に生活の本拠たる実体」が必要とし(最判昭和32年9月13日裁判集民27号801頁)、「その人の生活にもつとも関係の深い一般的生活、全生活の中心」を指す(最判昭和35年3月22日民集14巻4号551頁)との判断も示している。
これに対し、若者については、高校卒業と同時に親元を離れることが多く、親と一緒に住んでいないそれらの若者が、実際には住所を移しているにもかかわらず、住民票の異動手続(住所変更の届出)を行っていないといった実態がある。これは、他の市区町村に転出した若者については、生まれ育った地元への愛着や帰属意識がある一方、現在住んでいるところで行政サービスを受けているとの意識や、住所地の自治体との関わり合いが希薄となりがちなことなどが関係しているともいわれる。
それでは、そのような若者が親元の住所地で投票できるかといえば、選挙管理委員会の中には、それらの若者には生活の本拠や居住の実態がないことを理由に、選挙人名簿への登録を行わなかったり、選挙人名簿から抹消したりしているところがあるという。そうなると、そのような若者は、住民票を移していない住所地、親元の住所地(住民票のある地)のいずれでも投票ができなくなる。選挙人名簿の正確性の確保が重要であることは確かではあるが、その結果、居住要件のない国政選挙でも投票できないことになってしまうことになる。そのことは、選挙権の保障という点から重大な問題をはらんでいるのではないだろうか。
他方、3か月の住所要件に絡んでの投票権の空白の問題(21)については、2016年の法改正により、①旧住所地での住民票の登録期間が3か月以上である17歳の人が転出後4か月以内に、新住所地で18歳となったが、新住所地での住民票登録期間が3か月未満である場合、②旧住所地での住民票の登録期間が3か月以上である18歳以上の人が選挙人名簿に登録される前に転出をしてから4か月以内で、かつ、新住所地での住民票の登録期間が3か月未満である場合には、旧住所地で選挙人名簿への登録が行われることとなった。
ただ、住民票を移して3か月未満に行われる国政選挙では、従来においても、不在者投票制度を活用して旧住所地での投票が可能となっていたが(旧住所地の選挙管理委員会に申請すると選挙期間中に投票用紙が郵送され、それにより現住所地の期日前投票所で投票することが可能)、制度が十分に周知されてはおらず、また、手続が煩雑であるなどとして、あまり利用されていないともいわれる。
権利や適切な機会の付与とともに、継続的な主権者教育が必要とされるゆえんでもある。