2022.05.25 議会改革
第28回 自治体議会と多様性(1)
(2)クオータ制
女性議員を増やす切り札となるのがクオータ制(quota)ともいわれ、世界的にはこれを導入する国が増えているが、日本においてもその導入が論じられるようになっている。
クオータ制は、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等の実現を目的として講じる暫定的な措置であるポジティブ・アクションの一つであり、性別を基準に一定の人数や比率などを割り当てる手法である。議席のうち一定数を女性に割り当てることを憲法又は法律のいずれかにおいて定める「議席割当制」、議員の候補者の一定割合を女性又は男女に割り当てることを憲法又は法律のいずれかにおいて定める「候補者クオータ制」、政党が党の規則等により議員候補者の一定割合を女性又は男女に割り当てることを定める「政党による自発的クオータ制」などがある。IPU、民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)、スウェーデンのストックホルム大学が共同で行うクオータ制に関する各国の情報を集めたクオータ・プロジェクトのジェンダークオータ・データベースによれば、2019年2月現在、調査対象193か国のうち、国会(下院又は一院制)において議席割当制を導入している国は24か国、候補者クオータ制を導入している国が53か国、国会議員選挙において政党による自発的クオータ制を導入している国が55か国であり、111の国で、そのいずれかあるいは議席割当制・候補者クオータ制と政党による自発的クオータ制の両方が導入されている。また、IDEAの2018年の「女性議員を増やすことを目的とする政党のための政治資金調達─比較分析─」によれば、世界の3分の2の国が政党助成金制度を導入しており、それらのうちで、政党助成金を配分する際に政党の女性比率に応じた配分・増額を助成金の一部又は全体に対してするものや、使途に関して女性の政治参画を高める目的などの制限を課すなどする「女性議員を増やすことを目的とする政党助成金制度」を実施しているのは30か国とのことである。
そのような中で、日本で特に注目されてきたのは、フランスと韓国のクオータ制である。例えば、フランスでは、憲法改正を経てパリテ(男女同数制)が導入され、小選挙区制の国民議会では、各政党の男女の候補者数の差がそれぞれの全候補者数の2%以下に規制され、違反した場合にはその度合いに応じて政党補助金が削減されるものであり、また、県議会議員選挙では男女2人1組で立候補する2人区とされ、有権者は立候補したペアの中から1組を選ぶ仕組みとされている。また、日本の衆議院と同様の小選挙区比例代表並立制である韓国国会では、定数の18%に当たる比例代表部分につき政党は全候補者のうち女性を50%以上とし、名簿の奇数順位を女性候補者に当てるものとされるとともに、小選挙区部分については30%以上の選挙区で女性候補者を立てる努力義務が定められ、その達成度を勘案して政党補助金の配分が調整されることとしている。
ただし、フランスでは、クオータ制を定めた法律が憲法院によって違憲と判断されたのを受け、憲法改正を行った上でパリテを導入したものであり、イタリア、スイスでも法律によるクオータ制が憲法裁判所により違憲とされ、その後、イタリアでは、憲法改正を経て、候補者クオータ制を導入する一方、スイスでは、政党による自発的クオータ制にとどめている。OECD加盟38か国のうち、法律型のクオータ制を導入している国は12か国であり(13)、いずれも候補者クオータ制を導入しており、早くから女性議員の増加に取り組んできた北欧諸国やドイツでは政党による自発的クオータ制をとっている。
日本においてクオータ制を導入する場合には、日本国憲法の下でどのようなクオータ制の導入が可能なのか、どのような選挙制度の下でどのようなクオータ制が可能なのかを検討する必要がある。前者については、議席割当制や候補者クオータ制の強制的クオータ制を法律で設けることについては、逆差別などとして平等原則に反しないか、男性の立候補の自由の制限にならないか、政党の自由や結社の自由を制限することにならないか、選挙する側(有権者)の選挙権を制限することにつながらないか、国民主権や国民代表の原理に反しないのかなどの問題が指摘されうる。他方、政党の規則などによる自発的クオータ制は、それぞれの政党の判断により可能であり、また、かつて政府が検討していると報道された政党交付金に「女性」枠を設けることについても(14)、その制度設計次第ではあるものの、その一部にとどめられ手段としての合理性が説明できるのであれば、直ちに憲法に反するものではないといえるだろう。
クオータ制については、選挙制度とも密接に関連することになり、例えば、名簿式比例代表制の場合には、登載者の比率や順位について女性候補者の割当てが可能となるのに対し、小選挙区の場合には小選挙区全体における政党の候補者の女性の比率などを問題とすることになる。定数の多い大選挙区であれば女性枠を設けることも可能となるが、いずれにしてもそれらは制度技術的な可能性にとどまるものである。また、その場合には、女性の比率はどのくらいとするのか、50%以外の数字にどの程度の合理性があるのかといった問題(15)のほか、強制の方法として、名簿届出の却下といった直接的なものとするのか、政党助成の減額や金銭の徴収といった間接的なものとするのかといった問題もある(16)。
なお、クオータ制の導入については、国の議会を念頭に置いて論じられることが多いが、自治体議会でも問題となりうるものであり、諸外国では、自治体議会選挙から導入し国政選挙に拡大していく例も見受けられる。憲法によるハードルも国会ほど高くはないとの見方もあるものの、現在の自治体議会の選挙制度や政党化の状況を前提とする限り、女性等が現在より当選しやすくなるような制度的な工夫の余地はありうるとしても、クオータ制となるとそう簡単ではなさそうだ。