2022.05.25 議会改革
第28回 自治体議会と多様性(1)
このほか、選挙権・被選挙権を有しない者については、公職選挙法11条で規定されているところ、成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判を受けたもの)に選挙権を認めていないことの憲法適合性が問われた際に、改正により、選挙権だけでなく被選挙権も認めることとしたが、これについては、有権者の判断に委ねることでよいと考えられたものであったことも忘れられてはならない。評議・評決も含む刑事裁判に参加する裁判員についても、衆議院議員の選挙権を有する者の中から選任するとされているが、選挙権年齢の引下げに当たり、18歳以上20歳未満の者は、当分の間、就職禁止事由に該当するとされたものの、民事成年年齢の引下げの際に18歳以上が対象とされることとなった。
選挙権年齢の引下げに伴い、被選挙権年齢の高さや選挙権年齢とのバランスが問題となるのは当然であり、諸外国の中にはなお高めに設定する国があることに安住し、またもや後追い的になるのは避けるべきではないだろうか(25)。日本で、選挙権年齢の引下げが容易に進まなかったのは、18歳・19歳の当事者も含め国民の間でこれを支持する議論が盛り上がらなかったことのほか、政党の政治的な利害なども絡んでいたといわれる。被選挙権年齢の引下げについては、主要な政党で反対しているところはないようであるが、その一方で、その動きは鈍い。たとえ対象となる当事者や世論が積極的ではなくても、参加の権利の問題であることが認識され、検討が進められていくことが求められているといえる。
若年層の議員が増えることは、若者の参加ということだけでなく、議会の活性化にもつながりうるのであり、また、自治体議会が国の指導者も含めた政治家養成の場となっていくことなども期待される。ただし、世襲化や多選化・固定化につながる可能性もないわけではなく、そこで大事となるのは多様性と流動性といった視点ではないだろうか。
(1) 都道府県議会については全国都道府県議会議長会「第14回都道府県議会提要」、市議会については全国市議会議長会「市議会議員の属性に関する調(令和3年7月集計)」、町村議会については全国町村議会議長会「第67回町村議会実態調査結果(令和3年7月1日現在)」による。
(2) 議員の職業(兼業)の状況について見ると、市議会議員(2021年7月集計)では、農業・林業が10.5%、卸売・小売業が5.6%、建設業が3.9%となっており、町村議会議員(2021年7月1日現在)では、農業・林業が27.9%、建設業が6.4%、卸売業・小売業が6.0%となっている。
(3) 2021年10月31日執行の衆議院総選挙の速報結果(総務省)によれば、有権者数は1億532万523人で、このうち女性が5,442万8,569人、男性が5,089万1,954人となっており、女性の占める割合は51.7%であった。
(4) 列国議会同盟のDatabase on Women in Politics・Monthly ranking of women in national parliamentsによる(2022年3月20日に確認)。
(5) 日本経済新聞2021年10月21日朝刊。
(6) 調査は2020年12月~2021年1月にかけて、全国の自治体議会議員1万100人を対象として実施され、5,513人(男性3,243人、女性2,164人、性別無回答106人)が回答。
(7) 立候補を断念した理由では、男女ともに、「立候補にかかる資金の不足」、「仕事や家庭生活のため、選挙運動とその準備にかける時間がない」、「知名度がない」が上位3項目となっており、「自分の力量に自信が持てない」と「当選した場合、家庭生活との両立が難しい」で男女差が大きくなっている。
(8) 東京新聞2022年2月28日朝刊「Women’s Day 2022 国会変革まず自主点検から 世界基準で課題認識を 超党派」、同2022年3月9日朝刊「衆院の男女格差点検へ 議運で与野党合意」など。
(9) 参議院では2000年、衆議院では2001年に、それぞれ議院規則において欠席の理由として「出産」が明記され、自治体議会においても、都道府県議会については2002年に、市議会と町村議会では2015年となって、標準会議規則において「出産」が明記された。
(10) 労働基準法65条は、母性の保護の観点から、使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならず、また、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないとするが、産後6週間を経過した女性が請求した場合において医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えないともしている。
(11) 同月には、これに先立ち、女性活躍担当・男女共同参画特命担当大臣及び与党女性議員から、女性活躍の促進の観点から、産休期間に配慮した標準会議規則の改正を求める要請が全国三議長会に対してなされている。
(12) 法令用語としての「事故」は、物事の正常な運行や人の業務の執行の妨げとなるような出来事をいい、出席の支障となる出来事がある場合を法令上「事故」と規定する例は少なくないが、「事故」は一般にはアクシデントとのイメージがあり、事故の例示として出産、育児などが規定されることに違和感をもつ向きも見られたことから、「やむを得ない事由」に改められたものである。
(13) アイルランド、イタリア、韓国、ギリシャ、スペイン、スロベニア、チリ、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、メキシコの12か国。
(14) 産経新聞2015年6月9日朝刊「政党交付金に『女性』枠 政府検討 議員数で配分、登用促す」。
(15) その場合の数や割合の目安としてしばしば掲げられているものに30%という目標数値がある。1990年の国連「ナイロビ将来戦略勧告」でも30%の目標数値が示され、実現はできなかったもののそれを踏まえ日本政府も2003年に2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度という目標を掲げていた(ちなみに、第5次男女共同参画基本計画では、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める」とされている)。これは、クリティカル・マス(決定的多数)ともいわれており、女性が30%の水準に達すれば連鎖的な変化を生じうるが、それに満たなければ男性による組織文化を変革することはできないとの議論もある。
(16) このほか、クオータ制は、本来、暫定的なものであるはずであり、どのような状況になったらそれをやめるのかといった問題もある。
(17) 初等中等教育局長通知「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治活動等について」であり、これは、現実の具体的な政治的事象の取扱いに慎重を期すことを求めた1969年の通知を見直したものである。
(18) 調査は2021年2月~3月実施、全都道府県議会・市区町村議会1,788議会対象のオンライン調査、回答数1,404議会、回答率78.5%。議会による主権者教育・シチズンシップ教育の推進についての設問については1,377議会が回答、数字は単純集計によるデータ。
(19) 請願については選挙権がなくても行うことができ、18歳未満の生徒が行うことももちろん可能である。
(20) 文部科学省の主権者教育推進会議「今後の主権者教育の推進に向けて(最終報告)」(2021年3月31日)。
(21) 新たに有権者となった人や選挙人名簿登録されていない人が住民登録していた市町村から他の市町村に転居して住民票を移し3か月以上経過していない期間に選挙がある場合には、これらの人は選挙権の行使ができない状態となっていたものである。
(22) 那須俊貴「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢」レファレンス2015年12月号。ちなみに、上院については、その被選挙権年齢が判明した70か国中、46か国(65.7%)で上院の被選挙権年齢が下院の被選挙権年齢より高く設定されており、両院の被選挙権年齢が一致していたのは24か国(34.3%)であったという。
(23) 2016年秋の第192回国会に、当時の民進党・自由党・社民党が衆議院に提出した公職選挙法及び地方自治法の一部改正法案では、それぞれの被選挙権年齢を衆議院議員・自治体議会議員・市町村長は20歳以上、参議院議員・都道府県知事は25歳以上に引き下げるものであり、日本維新の会が参議院に提出した公職選挙法及び地方自治法の一部改正法案は衆議院議員・参議院議員並びに自治体の議会の議員及び長の被選挙権年齢を18歳以上に引き下げるものであったが、いずれも廃案となっている。
(24) 判例(最大判昭和43年12月4日刑集22巻13号1425頁)も、「立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である」とした上で、「憲法一五条一項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接的には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである」としている。
(25) 特に、日本では、欧米の動向を気にする傾向が強いが、それらの中で被選挙権年齢が高い国は、アメリカ、イタリアなどのように憲法で被選挙権年齢を規定し改正が容易ではないといった事情があることにも留意が必要である。また、上院議員の被選挙権年齢を下院のそれより高く設定している国が少なくないが、諸外国の上院では完全な公選制を採用していないところも多いといったことなどもある。
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