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2022.03.10 政策研究

第2回 自治体議員も人ごとではいられなくなるカーボンニュートラル(後編)

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打つべき手は経済的手法に限られる

 以上見てきた三つの政策的手法で、今後、本格的に温室効果ガス排出量を削減するために実効性のある手法はどれか、と問われれば、明らかに「経済的手法」と答えざるをえないだろう。
 もちろん地球温暖化の進展により急速に日本近海で海面上昇が起こるとするなら、規制的手法も選択肢としては有力になってくるだろう。だが、地球温暖化問題の難しさは、排出源と影響の範囲が全地球的であることにある。日本だけが規制を強化しても、他国が強化しなければ意味をなさない。その点、経済的手法であれば、特に排出量取引は国内のみならず海外との取引も可能であり、全地球的な広がりを持っている。
 民間企業では、三菱商事・垣内威彦社長が、「今後、自らカーボンニュートラルを達成できない企業は、未達となるGHG(温室効果ガス)排出量分の炭素クレジットを購入しなさいという仕組みが導入される可能性がある」(週刊東洋経済2021年11月27日号)と述べている。また、先日インタビューした、ある民間企業の温暖化対策担当者も、新規の環境税が導入されることを前提に、中期経営計画を策定しているとのことであった。
 政令市や中核市、施行時特例市などの大規模地方公共団体においても同じようなことが起こる可能性は、必ずしも否定できない。方法は、二つである。一つは、区域ごとに排出量の上限を設定し、それを超えた分については、他地域から排出量(排出権)を購入する。先述した①の方式の導入である。おおむね都市部は、温室効果ガスの吸収源となる森林面積が少ないかほとんどないから、森林を有する農山村部のクレジットを購入することになる。ちなみに、このクレジットは、①の方式ではなく、②の方式で得られたクレジットの購入も考えられる。これによって、温室効果ガスの排出とともに、都市と農村の財政均衡も一部実現できるようになる。
 キャップの設定の前提となる、区域からの温室効果ガスの総排出量については、前編でも紹介したように、行政区域から発生する温室効果ガス総排出量を毎年公表することをすでに行っているので、簡単だ。あとは、どういった基準で上限値を設定するかであるが、これは、2030年温室効果ガス排出量を2013年度比46%減に合わせる形で総枠を設定し、そこから配分という方式となるのだろう。また、ゼロカーボンシティを表明したということは、自ら厳しい上限設定をしたといってもよいだろう。
 もう一つの方法は、②の方式である。さすがに、地方自治の本旨からいっても、①の方式で地方公共団体に上限値を設定することは、地方財政法4条の5(割当的寄附金等の禁止)に類似する行為になるのではばかられる(その点、ゼロカーボンシティ宣言は、地方公共団体が、自ら上限値を設定しているので問題はない)。
 ②の場合は、簡単だ。そもそも前回紹介したように、所沢市でも、「温室効果ガス排出量実績報告」書では、「事務事業編」及び「区域施策編」ともに、削減目標を設定している。この削減目標は自主的な設定であるので、この値を将来のベースラインとして設定。そこからさらに削減が進んだ分については、クレジット化。逆に、ベースラインを超えた分については、よそからクレジットを購入して補塡する。この制度であれば、何とかしてベースラインを超えないようにする財政的インセンティブが働くことになる。
 気づいているかいないかはともかく、排出量取引に必要な道具立てはすでに整っていることがご理解いただけただろうか。

温室効果ガス排出量抑制の観点から、姉妹都市の選択を再検討する

 区域の温室効果ガスの総排出量の算定と公開を義務付けられている地方公共団体にあっては、現状の算定について、しっかりと見直した方がよいだろう。削減目標についても、本当に達成可能な数値なのかは改めて見直した方がよい。
 また、温室効果ガスの吸収源を持つ地方公共団体との姉妹都市関係も強化すべきであるし、これからは姉妹都市の選択に当たっては、防災の観点のみならず、温室効果ガス吸収力の大きさも考慮事項に加えていくことになるだろう。姉妹都市間でのクレジットのやりとりであれば、市場流通なしに、相対での排出量の取引のみで完了する可能性も考えられる。地域脱炭素ロードマップにも「遠隔地も含めて再エネポテンシャルの豊富な市町村の再エネ立地と積極的に連携し、そこで得られた再エネ電気を活用」とある。
 逆に温室効果ガスの吸収源となる森林や里山などを多く抱える地方公共団体にあっては、「区域施策編」の作成を求められていなくても、区域からの温室効果ガスの総排出量算定をしておくと、区域内の森林が思わぬ財政効果を生み出すかもしれない。そのためにも、排出量取引を前提とした地域の森林や里山の管理計画を、温室効果ガスの吸収量を増加させるための方策も含めて検討していく必要があるだろう。
 いずれにせよ、本格的に「ゼロカーボンシティ」を目指す、あるいは「脱炭素先行地域」を目指すのであれば、ほとんどの市町村は、カーボンプライシング、とりわけ排出量取引の活用を避けて通れない。これからは、カーボンプライシングを前提に、脱炭素政策に取り組むよう執行部に求めていこう。

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