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2022.02.25 政策研究

第23回 区域性(その3)

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住居表示による人間と区域の連結

  情報を載せているとはいえ、紙などのブツである郵便物を配達したときに、それを受領するためには、当該物理的建物に人間は、本人か代理人かはともかく、必ず出向かなければならない。それゆえに、区域に固着した物理的建物という連絡先を通して、区域と人間・人間活動を連結させることができる。こうして、住居表示によって、区域に紐付いた人間・人間活動という意味での地域が成立する。住所には必ず住居表示がなされているので、住所によって区域に人間を連結させることができる。
  住所は、居住実態や現在地とは無関係に、物理的実在を抜きにしてバーチャル的に指定できる本籍地ではない。個人は戸籍筆頭者及び戸籍を通じて、本籍地という区域に紐付いている。しかし、本籍地に郵便物を配達しても、当該個人には送達できないことが多い。もちろん、現住所を本籍地にしている人には届く。しかし、本籍地は現住所と一致していないことも多い。また、本籍地が、実家や親戚の現住所である場合には、親族の紐付けを通じて、当該個人に転送又は連絡がつくことは、ないとはいえないが、戸籍は親族間の円満な紐帯を必ずしも意味しない。さらにいえば、本籍地には物理的建物が存在せず、あるいは、物理的建物は存在しても有人ではなく、連絡がつかないことも多い。本籍地はバーチャルな空間にしか存在しない、原始的官製メタバースである。
  電話番号や電子メール等のサイバー上のアドレスの場合には、区域を媒介しないで、当該個人に連絡をつけることは可能である。したがって、電話や電子メールで、自治体から個人に連絡がついても、当該個人が区域に紐付いているかどうかは、定かではない。電話番号(特に携帯電話)や電子メールアドレスは、必ずしも区域と紐付けられていないからである。
  それでも、10桁の固定電話番号の場合には、市外局番があるので、ある程度は区域との紐付けは可能である。7桁の郵便番号と同様の効果を持つ。とはいえ、自治体(市区町村)の区域と、固定電話番号の市外局番とは、かなり一致していない。例えば、「03」では、23区のほかに調布市・狛江市・三鷹市の一部が入り、「042」では、稲城市・小金井市・国分寺市・小平市・多摩市・東村山市・清瀬市・狛江市・調布市・西東京市・東久留米市・府中市・新座市・昭島市・あきる野市・国立市・立川市・羽村市・東大和市・日野市・福生市・武蔵村山市・西多摩郡・八王子市・相模原市・町田市・座間市・飯能市、日高市の全域あるいは一部が入る(12)。これでは、区域の識別には、全く役に立たない。

郵便物の受取り・提示

  自治体には、ある個人や集団活動が、当該区域で継続的になされているかどうかを確認する行政技術は、ほとんどない。そのときに、住居表示された住所に郵便物を郵送し、その郵便物を当該個人などがモノとして受領できたときに、自治体としてはある程度の確認がなされたと推定することがある。逆に、宛先人不在であれば郵便物は自治体に戻ってくることもある。転送先があるならば、ある個人が当該区域に紐付いているとはいえない。そして、配達はされたとしても、郵便受けに大量に郵便物が滞留することもあろう。したがって、配達できたことだけでは確認にはならず、受取人指定又は当該郵便物を自治体に持参・提示・返送することによって、区域と人間の紐付けが確認できる。
  もちろん、郵便物の受取り・提示が、区域と人間の強度の継続的な紐付けを証明するわけではない。ある郵便物を受け取った時点では当該区域と連結があった、ということにすぎない。つまり、自治体から郵便物が来そうなときに、あるいは、一定期間に1回程度、「住所」と称する配達先(物理的建物)に赴くことで充分である。その程度で、居住実態があるとは言い切れないだろう。さらにいえば、当該住所に住んでいる協力者に、転送などを依頼しておけば済む。偽装工作としての「住所」は充分に可能ではある。それでも、電話や電子メールのように、1回も現地に赴くことなく、あるいは、何らかの協力者との連携もなく、自治体と連絡がついてしまうのとは、区域との連結度合いには違いがあろう。
 
(1) 川根誠「税務上の『住所』概念の研究─民法上の『住所』概念の不確かさと『借用』の困難性─」税大ジャーナル28(2017年)。
(2) 市町村自治研究会編『全訂 住民基本台帳法逐条解説』(日本加除出版、2014年)。
(3) 「特集『動物調査手法の最前線』」JEAS News(日本環境アセスメント協会)Spring(April 2016)no.150。
(4) そもそも、GPS発信器で、時間ごとに存在場所を確定し、移動経路や範囲を確認したとしても、居住実態を認定することにはつながらない。実際に、多くの人は、住所地にとどまっているわけではないからであるし、逆に、長期滞在や移動・徘徊(はいかい)しているならば、住所であるとは限らない。それゆえ、いかにICT技術が発展しても、居住実態を判断するための参考資料になるというだけである。
(5) 新型コロナウイルス感染症対策では、しばしば、指定場所待機・自宅療養が要請される。そのときに、居場所を行政が確認することがなされている。厚生労働省・入国者健康確認センター「日本へ入国・帰国した皆さまへ」によれば、「入帰国後指定された待機期間」では、「自宅や宿泊施設(登録待機先)で待機し、他者と接触しない。毎日、位置情報と健康状態の報告を行う」ことが、「誓約義務」となっている。「誓約書」が提出できない場合には、検疫所が確保する宿泊施設等で待機となる(ので、事実上は「誓約書」提出が義務となる)。誓約に違反した場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となり得るほか、日本人については、氏名や感染拡大防止に資する情報が公開され得るという。誓約遵守とは、具体的には、「入国者健康居所確認アプリ(MySOS)」による位置情報の報告である。待機場所に到着したらアプリで待機場所を登録する。1日複数回「現在の位置情報」を求める通知が届くので、「現在地報告」ボタンを押して応答する(https://www.hco.mhlw.go.jp/#m01)。
自宅療養の場合には、(感染拡大期には現実として極めて困難なことになるが、)原則、保健所が1日1回電話などで健康状態の確認を行う。このときに、連絡先が固定電話番号ならば、ある程度の自宅所在の確認はできる。しかし、携帯電話やLINEのような移動端末の場合には、自宅所在は確認できない(厚生労働省「自宅療養をされる皆様へ」(https://www.mhlw.go.jp/content/000657892.pdf))。
また、自宅療養期間中の食事については、自治体が、一定期間常温で保存可能な食事セットを、委託した配送業者を通じて自宅まで届ける配食サービスを実施することがある。例えば、埼玉県によれば、食事セットには3~5日分の食品が入っており、玄関先に置いておく(いわゆる「置き配」)。配達員が来た際、必ず玄関先には出ず、インターホン越しに対応し、玄関先に置いておくよう、配達員に伝える(電話で配達の連絡をする場合もある)。在宅を確認できなかった場合は、再度配達を行う(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19/tebiki.html)、(https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/194775/tebiki136.pdf)。この手続によれば、ICT技術ではなく、住居への現物配達という方式により、3~5日に1回は自宅所在を(配送業者が)確認することになる。
(6) 税制では、区域と経済活動又は税額を連結する必要がある。法人住民税(法人税割)の分割基準は従業者数であるが、法人事業税では、業態に応じて、事業所等数、従業者数、固定資産価額、電線路電力容量、軌道延長キロメートル数などが利用されている。基本的には、物理的に区域に固着して連結している。従業者数は、必ずしも物理的建物に固着しているわけではないが、実際には、事業所等を通じて区域に連結されている。
  また、国際課税においては、「恒久的施設(Permanent Establishment(PE))」の存在を「ネクサス」として、課税を行うことが基本であった(「PEなくして課税なし」)。しかし、デジタル経済では、恒久的施設がなくても経済活動がなされるので、恒久的施設ではないネクサス概念の追求・拡張が進められている。三菱UFJリサーチ&コンサルティング「デジタル経済における国際課税ルール等に関する調査報告書」(2020年3月、東京都主税局委託調査)。
(7) 住居表示が未実施の場合には、建物の有無を直接には意味しないが、地番によって配達を行うことが普通である。
(8) 「街区方式による住居表示の実施基準」1963年7月30日自治省告示117号。
(9) 大杉覚『コミュニティ自治の未来図─共創に向けた地域人財づくりへ』(ぎょうせい、2021年)。
(10) 同法で市町村と特別区が明示的に一括化されるのは、5条の2第1項に見られる「市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)」という規定である。実際にも、昭和30年代から50年代にかけて、特別区が住居表示の実施を行っている。
(11) 古くは、柳田國男『地名の研究』(講談社学術文庫、2015年)。今尾恵介『住所と地名の大研究』(新潮選書、2004年)、同『地名の謎』(ちくま文庫、2011年)、同『番地の謎』(光文社、2017年)、同『地名崩壊』(角川新書、2019年)。なお、災害の歴史・経験と地名を結びつける見解もある。楠原佑介『この地名が危ない』(幻冬舎新書、2011年)、小川豊『あぶない地名』(三一書房、2012年)、谷川健一編『地名は警告する―日本の災害と地名』(冨山房インターナショナル、2013年)など。災害を契機に、あるいは、災害があった過去と決別した未来をつくりたいとして、地名変更をすることもあるだろう。逆に、災害の経験を伝承しようとして名称を付け、あるいは、旧来の名称を維持することもあり得るだろう。
(12) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/tel_number/shigai_list.html

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