2022.02.25 政策研究
第23回 区域性(その3)
住居表示~物理的建物による連結(nexus)~
結局のところ、住所とは、居住実態や生活実態というよりは、区域と物理的に紐付けるための連結(nexus)が存在することが、重要である。最も単純な連結は、居住という実態活動ではなく、住居=家屋=事務所・事業所という半恒久的に存在する物理的建物である(6)。物理的建物には、住居表示と称する連絡先があることが多く(7)、要するに、郵便物を配達することができる。住居表示のある全ての物理的建物が住所ではないが、住所には住居表示など配達先のある物理的建物がある。
1962年に「住居表示に関する法律」が制定された。住居表示の原則は、市街地にある住居(住所・居所又は事務所・事業所などの施設の所在場所)を表示するために、都道府県・郡・市・特別区・行政区・総合区・町村の名称を冠するほか、街区方式又は道路方式の方法による。街区方式とは、町・字の区域を道路・鉄道・軌道・河川・水路などによって区画して街区符号を付け、当該街区内にある建物・工作物に住居番号を付けて表示する方法である。道路方式とは、市町村内の道路の名称と、当該道路に接するなどしている建物・工作物に付けられる住居番号を用いて表示する方法である(同法2条)。
一般には街区方式であり(8)、「A県B市CX丁目Y番-Z号」(単純にはA県B市CX-Y-Z)である。つまり、道路方式のように、線(道路名称)と点(住居番号)で表示するよりも、面(街区符号)と点(住居番号)で表示する街区方式が一般的なのは、自治体の区域性を反映しているといえよう。実際には、道路・通路がなければ、物理的建物への接近や訪問はできないのであり、道路方式の方が合理的のように見える。しかし、自治体は、都道府県、郡市、区町村、町・字(丁目)というマルチ・スケールの区域によって絞り込みがなされることが普通である(9)。それゆえ、その先も街区符号・住居番号で縮尺を絞り込みをしていくことが自治である。こうして考えると、街区方式での住居番号は点ではなく、やはり微小な区域(建物床面)なのであろう。
住居表示がなされると、何人も住居表示を用いる努力義務があり(同法6条1項)、国・自治体は利用義務がある(同条2項)。市町村は、住居表示板を設置しなければならない(同法8条)。また、市町村は、当該区域の住居表示台帳を備えなければならず(同法9条1項)、関係人から請求があったときは、住居表示台帳(の写し)を閲覧させなければならない(同条2項)。
住居表示の実施手続
住居表示の実施手続は、以下のとおりである。市区町村は、議会の議決を経て、区域を定めて、当該区域における住居表示の方法を定める(同法3条1項)(10)。そして、当該区域について、街区符号・住居番号又は道路名称・住居番号を付けなければならない(同条2項)。
その際には、市区町村は住民に趣旨の周知徹底を図り、理解と協力を得て行うように努めなければならない(同条4項)。市区町村は、住居表示(方法と街区符号・住居番号など)を告示し、関係人・関係行政機関に通知し、都道府県に報告する(同条3項)。
街区方式をとる場合には、町・字の区域をできるだけ合理的なものにするように努めなければならない(同法5条1項)。新たな町・字の区域の名称は、できるだけ従来の名称に準拠させ、それが困難なときには、できるだけ読みやすく簡明なものにしなければならない(同条2項)。
市区町村長は住居表示の実施のため、町・字の区域の新設・廃止や町・字の区域・名称の変更について、議会の議決の前に案を公示しなければならない(同法5条の2第1項)。有権者は、案の公示日から30日間に50人以上の連署により理由を付して、その案に対する変更を請求できる(同条2項)。市区町村長は、変更請求を公表し(同条4項)、議会への提出議案には変更請求書を添付する(同条5項)。議会は議決の前に公聴会を開催しなければならない(同条6項)。議会は議案を修正議決することができる(同条7項)。また、市区町村は、住居表示で変更された由緒ある町・字の名称の継承を図るため、標識設置・資料収集などに努めなければならない(同法9条の2)。
住居表示の実施手続は、議会の議決事件であるように、比較的に重いものであり、それだけ住所表示が自治体にとって重要であることを意味する。また、街区方式を採用し、しかも、町・字の区画や名称の変更がある場合には、公告縦覧意見書・パブリックコメントと直接請求を混合したような、加重的住民参加手続が採用されている。すなわち、行政側が案を公示し、住民から変更請求の募集を受け付け、さらに、議会では公聴会が義務付けられている。市区町村自体の区域の変更である廃置分合・境界変更ではなく、市区町村内の小さなスケールの区域の変更であるとしても、自治体や地域社会・住民にとって、さらには、過去・現在・未来にとって、極めて重要な紐帯(ちゅうたい)の基盤なのである(11)。