2022.02.25 議会改革
第27回 議会と時間(2)
また、それには質疑中心の審議のあり方なども絡んでいるように思われる。まず、一方的に質す質疑は、野党によるチェック・批判の機会、野党の活躍の場となってきたのであり、そこでの与党の役割は定まってこなかったといえる。そして、質疑時間の割当制は、質疑を行っている議員以外の議員は、ヤジなどの不規則発言をすることはあっても、ただ聞いているだけの時間となる。加えて、日本では、定足数は議決だけでなく審議の要件ともされており、その出席が重視される。このため、意外に思うかもしれないが、日本の議会においては、審議への議員の出席率は諸外国の議会(少なくとも国の議会の場合)と比べても高い。しかし、審議に出席しても、自分の出番があればそれ以外の時間、出番がなければ審議時間は聞いているだけとなり、かつ、どのような表決を行うかも審議の前にある程度決まっていることが多い。となると、議員の心理としては、審議時間が短いことを好むことにもつながるのは自然のようにも思われる。これには、議会活動だけでなくその活動が広範化・多様化するとともに、再選が重要な命題となる議員の意識や行動原理が影響している可能性も否めない。しかも、そのことは、提出議案の早期成立を望む行政府や執行部の利害とも一致することになる。
もちろん、野党は、反対法案については、成立を阻止するために時間を確保しようとするが、早期の成立を目指そうとする与党には数の力で劣るために、スケジュール闘争に向かい、時間をめぐる与野党の攻防が繰り広げられることになる一方で、その多くは会期内に成立する。これが国会の現状だろう。これに対し、与野党会派の対立がさほど激しくはない自治体議会の場合には、反対の会派や議員がいたとしても、短い会期の中で、スケジュールや審議が定型化され、通常はそれに基づいて進行し、議案が成立することになる。
そして、そのほかにも、それらに関連し、あるいは背景になるものとして、自治体職員も含む官僚による政策形成、官僚と議員との普段からの深い結び付き、成立を確保するための官僚による政治的多数派の選好の考慮、ルールや手続よりも会派間による政治的な協議・調整を重視した運営スタイル、審議における与党議員の役割観や役割の曖昧性なども挙げることができるように思われる。国会にしても、自治体議会にしても、その運営や活動における行政府や執行部の関与の排除が制度的な建前としていわれるが、実際には官僚が普段から議員と深く結び付き、水面下では(ときにはそれが水面上に現れることもあるが……)それらにかかわっており、質問と答弁の調整だけでなく、代わって質問づくりを行ったり、スケジュール調整に関与していることもあるといわれ、そのような政官構造や政治のあり方も関係しているといえる。
それらの結果としてもたらされているのが短い審議時間という特徴ともいえるが、そのことがそれぞれのアクターにとって不都合となることはない。経験論的な見方にとどまるとの批判もありうるだろうが、いずれにしても、一つのことだけが原因となっているのではなく、様々なことが複雑に絡み合いながら現在の姿が形づくられていると見るべきではないだろうか。したがって、例えば事前審査や事前説明の慣行を元凶として、それを廃止さえすれば解決するといった類いのものではなく、このことは既に経験済みともいえる(27)。
改革は必要だとしても、様々なものが絡まった根の深い問題でもあり、単純あるいは形式的な比較・批判や諸外国の議会の参照・模倣だけでは、問題の所在も十分には見えてこなければ、問題の解決につながることにもならない可能性が高い。
(1) 衆議院委員会先例集(平成29年版)45、参議院委員会先例録(平成25年版)121・135。なお、質疑の時間には、質問だけでなく答弁の時間も含まれるのが一般的であるが(いわゆる往復方式)、参議院の予算委員会では質問の時間しかカウントしない方法(いわゆる片道方式)で行われることもあり、この場合には、質問の時間のだいたい2.5〜3倍が答弁も含んだ実際上の質疑時間となるといわれる。
(2) 与党会派と野党会派の配分比率は、委員会や議案によっても異なるものの、例えば、近年は、衆議院の予算委員会では、おおむね2:8が相場ともいわれ、他の委員会でも2:8や3:7などともいわれてきたが、これは事前審査の建前の下での審議促進を意図したものであったともいわれる。他方、2017年から2018年にかけて、与党側は衆議院での与党の質疑時間の増加・確保を主張して、与野党間で議論となり、衆議院の予算委員会では36%:64%となったことなどもあったが、その背景には、与党の事前審査機能の低下の影響や若手議員の活躍の場の確保の必要などがあったといわれた。もっとも、その後においては与党の質疑時間はあまり問題とされていない。
(3) 日本経済新聞2018年10月17日朝刊「データで読む国会2『衆院委、どれだけ質疑?』」によれば、2018年の常会である196回国会(会期182日)における衆議院の委員会での審査法案の平均審査時間は5時間30分であったとされる。国会の審議時間ということでは、これに本会議の審議時間と参議院の審議時間が加わるが、本会議の審議時間は、趣旨説明と質疑が行われる重要法案以外の法案については委員長報告と採決の時間のみであることが多い。また、参議院の審議時間は、衆議院よりも多くなることもあるが、衆議院先議の議案の場合にはだいたい衆議院の時間の8~7掛けが相場ともいわれることがある。本会議趣旨説明と質疑が行われる議案のうちその内容が重要かつ広範に及び、内閣総理大臣が本会議及び付託委員会で答弁すべきものとされる「重要広範議案」については、衆議院の委員会では20時間程度(特に重要なものは30時間程度)というのが一つの目安ともいわれることがある。ちなみに、近年の重要広範議案で衆議院の委員会の審査時間が最も長かったのは、2015年の安全保障関連法の116時間30分であったという(時事ドットコム「重要法案の衆院審議時間」(2018年11月)参照)。