2022.01.28 政策研究
第22回 区域性(その2)
「地方自治物語」における「地域」の類型(5)~地域手当~
「地方自治物語」には、さらに、第5類型としては「地域手当」が含まれている。もっとも、これは「地方自治物語」からすると、外部由来のものである(204条2項)。すなわち、公務員給与制度(いわゆる2000年代の給与構造改革)において、全国一律ではない給与金額を設定するために、日本国土をいくつかのレベルの「地域」(「級地」)に区分するものである。例えば、給与法(「一般職の職員の給与に関する法律」)には、「地域手当の級地」(同法11条の3第2項)が規定されている。
これらの級地は、行政の権力的作用によって区分されるのであるから、区域でもよさそうではある。しかし、この区分は、実態としては民間賃金水準という経済活動を前提にし、かつ、こうした経済活動が全国一円ではなく限られた圏域であることを想定していよう。その意味で、単に地理的区分ではなく、賃金水準の範囲として地域と呼ばれるようである。国定の「地方自治物語」においては、地域とは単なる地理的空間や、行政の便宜による区域の分割・画定ではなく、住民や共同活動の存在が前提になっている。いわば、「地域人間活動」や「地域社会」とでも呼べるものである。その意味では、地域の経済活動もその一種であり、地域経済活動を想定しているのであろう。
おわりに
「地方自治物語」においては、〈地域(=地理的空間+人間活動)⇒権力作用⇒区域⇒住民〉という関係がある。しかし、権力作用による区域の設定に先立つ地域(=地理的空間+人間活動)が、明確に存在するのかといえば、いささか難問である。仮に漠然とした圏域としては存在するとしても、明確に地域の境界を画定することは困難であり、多くの地域は重なり、あるいは、徐々に遷移するような中間地帯を伴うであろう。そもそも、こうした漠然とした圏域の設定すら、人間の認識という知的作用を必要とするのであり、多数の人間はそれぞれに異なる認識をする以上、一つに画定するには権力作用が必要になる。
そう考えると、権力作用に先立つ地域が存在するという物語は、存在すると空想又は擬制する「創世神話」かもしれない。実際には、権力作用によって区域が画定され、その後、反射的・遡及的に地域が原初的に存在したかのように、見なされるのかもしれない。あるいは、まず、権力作用によって地域が画定され、その後、第2回目の権力作用によって、区域が画定されるのかもしれない。しかし、こうなると、権力作用によって、地域も区域も、いかようにでも無節操かつ恣意的に改変できてしまう。権力作用を縛る「創世神話」として、権力作用の前に地域があるという物語をつくるのも、一つの賢慮なのであろう。
(1) 「土地に聴け」とは比喩的ではあるが、その空間の様々な特徴や事情を、「地理」、「地文」として、行政側が知り、くみ取り解読するということである。土地自体が人語を発するわけではない。もちろん、「地鳴り」など、土地から音が出ることがあり、また、それを行政側が認識することは大事であるが、「土地に聴け」とは、音に限らない様々な兆候を把握することである。
(2) なお、「大都市地域」を銘打った法律は、他に「大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法」、「大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法」、「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」がある。しかし、これらの「大都市地域」は、首都圏整備法・近畿圏整備法・中部圏開発整備法の規定する各種区域であり、いわば、都府県を超えた「大都市圏域」を想定しており、「地方自治物語」の「大都市地域」とはいささか異なる。