2022.01.28 議会改革
第26回 議会と時間(1)
3 時間の管理
議会は、限られた時間の中で、複数の案件について審議をして結論を出すとともに、一般質問や調査なども行っており、そこでは時間の管理が重要となる。時間の管理については、その管理の方法・手段と主体から見ることが必要である。
(1)時間の管理方法
時間の管理方法の代表的なものが、計画である。
計画には、会期を単位としたもの、1年を単位としたものなどがありうるが、会期を単位とする場合には、提出される議案の審議のスケジュールなどが立てられることになる。
国会の場合には、年間のスケジュールを定める計画も、会期ごとの立法計画なども立てられることはない。これに対し、自治体議会では、年間の開催スケジュールを立てて公表したり、会期ごとに本会議・委員会の開催予定を立てたり、審議計画を立てたりするところが散見される。
また、開議の日時、会議に付する案件、その順序を記載する議事日程もあり、議院規則や会議規則では、議長が、議事日程を定め、あらかじめ議員に通知ないし配布することが規定されている。諸外国の議会では、この議事日程が議会運営において重要な意味をもつことが少なくないが、日本の場合には、本会議の直前にしか決まらずお知らせにとどまること、本会議の審議時間が短く儀式化していること、会議(開議)の日時のみを通知して会議を開くことが認められていること(5)、日程の順序変更・追加が弾力的に行われていることなどもあって、議事日程の役割は限定的である(6)。
時間について議会法規等で定めておくのも、時間の管理につながる。例えば、議会の会期、会議時間、本会議や委員会での審議の順序などを定めておくのがその例である。
慣行化やパターン化も、時間の管理方法の一つとなり、例えば、会期の初めに、一般質問や代表質問を行い、その後に議案審査を行うこと、予算の審議を他の議案より優先して審議することなどは、ある程度慣例化されており、通常はそれに従って日程が組まれ、進行することになる。
規則や慣行として本会議や委員会の定例日を決めておくのも時間の管理となるが、それは時間の確保につながる反面、時間の限定や引き延ばしともなりうる(7)。
(2)時間の管理者
管理方法とともに重要となるのが時間の管理者であり、そこでは、議事運営権の所在、議事運営の協議・決定のための機関や場、実質的な決定者などが問題となる。
時間の管理者としてまず挙げられるのは、本会議の開会の権限、議事整理権など議事運営権をもつ議長であることはいうまでもない。もっとも、実際には、議事運営について協議・調整を行う機関や場が何らかの形で設けられることが多い。
この点、国会では、議院の運営全般について所管する議院運営委員会が常任委員会として設置され、議長は議院運営委員会の決定に基づいてその権限を行使している。したがって、議長の諮問機関である議院運営委員会が時間の管理者といえるが、現実には、会派間の協議による運営、人数が多く公開性の高い委員会での調整の難しさ、多党化の影響などもあって、実質的な決定の場は議院運営委員会の理事会にシフトし、議院運営委員会は確認・決定の場(議長の諮問機関の実質の喪失)となっているほか、会派・政党の機関である国会対策委員会によって全般的・具体的な指導・調整が行われている。
また、委員会については、委員会の開会と議事整理の権限をもつ委員長が時間の管理者となるが、国会では、実際には、理事会・理事懇談会で協議・調整が行われ、それに基づいて委員会運営を行うのが慣行となっている。
そして、議事運営や審議においては、議長や委員長の中立性がいわれるものの、そのポスト(議事運営権)を握った側が最終的には有利となり、時間的な制約・抵抗も乗り越えることも可能となるとの見方もある(8)。他方、どのような機関・場が実質的な時間の管理者となるにせよ、基本的には会派間の協議・調整によることが多い。
なお、国会において実質的な時間の管理者ともなっている国会対策委員会について一言触れておくならば、国会対策委員会は、それぞれの会派ないし政党の組織であるが、会派と政党の指導部が一体化するとともに、国会対策委員会が会派の議会対策・統制等を担っているものである。これは、短い会期、委員会中心主義等の分権的構造、議院運営における政府の排除、省庁のセクショナリズムの強さ、議院運営機関の常任委員会化、会派間の協議による運営などを背景に、政党・会派により議案全体の審議過程を設計・調整・管理・統制するシステムが必要とされたことによるものである。その結果、議院運営委員会(理事会)・委員会理事会と国会対策委員会の二元的なシステムとなるとともに、国会対策委員会による戦略の策定やスケジュール管理・指導、与野党の国会対策委員会の間での交渉・調整等が中心となり、委員会理事の出先化と国会対策委員会による統制が進むこととなった。
このほか、時間の管理ということでは、議事運営について行政府の関与をどの程度認めるかということも関係してくる。議院内閣制を採用する国では、その仕組みは多様であるものの、行政府の関与を認めることが少なくない。これに対し、大統領制の場合には、権力分立の観点から、行政府の側の関与は限定され、直接的にそれにかかわることはあまりない。日本の国会では、議院内閣制にもかかわらず召集以外には内閣の関与はほとんど認められていないこと、自治体議会では、首長制にもかかわらず議会の招集権は長がもち、議案の提出もできることがその特徴となっている。
さて、時間の管理者に関し国会を中心に述べてきたが、自治体議会についてもだいたい同じような状況となっているところが少なくないのではないかと思われる。自治体議会でも、議会運営委員会が設けられ(9)、委員会についても理事会で運営に関する調整・決定が行われているほか、会派間の協議・調整の場などが設けられることが多い。例えば、議会の円滑な運営のためとして、会議規則により、あるいは慣行として、各派代表者会議が設けられ、議会全般の諸問題について各会派間の意見調整等が行われているほか、各派交渉会、会派協議会、委員会協議会、全員協議会などの場を設けるところもある(10)。
ただ、やや疑問なのは、国会の議院運営委員会については上記のような問題を生じているにもかかわらず、なぜ、自治体議会の側が、議会運営委員会の規定を地方自治法に設けることを要望したのか(1991年の地方自治法改正で規定化)、その背景の一つであった常任委員会の数の制限が2000年の改正で、二以上の常任委員会の委員を兼ねることができないという制約が2006年の改正で廃止されたにもかかわらず、地方自治法の規定や議会運営委員会が存置されてきているのかである。それぞれの議会によって事情は異なるのだろうけれども、議会運営委員会は実質的な管理者たりえているのだろうか、また、それにより議会運営の透明性は高まっているのだろうか(11)。あるいは、国会の場合と異なり、議会運営委員会の定数が少ないこと(12)、公開性が低いこと(13)、会派や政治的対立の状況の違いなどから管理者として実際に機能しているということだろうか。