2021.12.27 政策研究
第21回 区域性(その1)
従来の区域
「地方自治物語」によれば、「普通地方公共団体の区域は、従来の区域による」とされる(5条1項)。住民がこれまで長らく「住んで来た」という意味の「住来の区域」ではない。むしろ、引越しや移動・通勤通学などが可能な「往来の区域」である。
地方自治法の制定は1947年であるから、それ以降の自治体(法律上は「普通地方公共団体」と表現されている)は、自治体にすでに従来から備わっている区域をもとに、その後の自治体は廃置分合又は境界変更することとなる。
1947年前後でどうなっているかというと、地方自治法が制定される前から、市町村・都道府県という団体は存在しており、その区域を引き継ぐということである。もっとも、1947年前後で、名称が同じ「市町村・都道府県」だとしても、単に名称が同じだけであって、国体が護持されたかどうかはともかく、自治体は護持されず、何の継続性もないということもできるかもしれない(戦前戦後断絶説)。しかし、「地方自治物語」では、そのようには考えておらず、1947年前後での団体(5)の継続性・同一性を想定している(戦前戦後連続説)。つまり、自治体は護持された。
したがって、「地方自治物語」では、地方自治法に基づく市町村と、市制町村制(1888年)に基づく市町村とが連続する。このように、前時代に遡る区域の決め方をすると、市制町村制より前時代はどうであったのか、という問題に先送りすることになる(6)。市制「第1章 總則」「第1欵 市及其區域」では、「此法律ハ市街地ニシテ郡ノ區域ニ屬セス別ニ市ト爲スノ地ニ施行スルモノトス」(1条)、「凡市ハ從來ノ區域ヲ存シテ之ヲ變更セス」(3条第1文)などとされている。また、町村制もパラレルであり、「第1章 總則」「第1欵 町村及其區域」において、「此法律ハ市制ヲ施行スル地ヲ除キ總テ町村ニ施行スルモノトス」(1条)、「凡町村ハ從來ノ區域ヲ存シテ之ヲ變更セス」(3条第1文)とされている。このように、「地方自治物語」は、「従来の区域」という方式自体を、従来から引き継いでいる。
区域の誕生
少なくとも、市制町村制(1888年)の制定段階では、「従来の区域」が存在したがゆえに、それを存続・存置することができた。しかし、上記のとおり、近世(江戸体制)においては、町方・地方の区分はあったにせよ、あるいは、マチ(町人集団)とムラ(百姓集団)は存在したとしても、ムラに境界の明確な区域があったわけではない。したがって、江戸体制から明治体制に改革する中で、徐々に段階的に、あるいは、突如として、市町村に区域が登場したことになる。
これが、「明治の町村合併」の機能とされる(7)。通常、「明治の合併」、「昭和の合併」、「平成の合併」と、全国規模の国策主導の町村合併期が近代日本には3回ほどあり、町村数は激減し、翻って、市町村の区域は拡大してきたとされる。しかし、後二者と前者は性質が異なるという。つまり、後二者は、区域と区域を量的に合併したものであるのに対して、前者は、境界が曖昧で、区域がモザイク状である状態から、新しい境界によって画定された(市)町村区域を創成したもので、質的に異なる変革なのである。こうして、近世の地縁的・身分的共同体というモザイク状の世界から、近代の大字─市町村─(郡)府県─国という同心円状又は入れ子状の世界へ変化した。