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2021.12.27 政策研究

第21回 区域性(その1)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

はじめに

 自治体には区域がある。区域の限界を画するのが境界であり、境界を越えると当該自治体の区域ではない。通常は、境界を越えた先は他の自治体の区域ということになる。したがって、境界を画定することは重要である。もっとも、ときには境界が確定せず、自治体間で紛争になることがある。しかし、それが紛争であることが、まさに、境界が画定されるべきという原則を、表現していよう。漠然と自治体の領域が存在するが、その境界や限界は曖昧なまま残されている、というものではない。
 区域とは、明確な境界で区切られた、あるいは、原則として区切られるべき、地理的な空間なのである。自治体は、このような意味で区域を持っている。区域とは、それを超える空間に境界線を画した結果として発生する、境界に囲まれた領域である。

区域の軽さ

 国定の「地方自治物語」(1)を前から順々に読んでいけば、区域が自治体にとって、根本的な出発点ではないことが分かる。すなわち、「区域」が登場するのは、「第2編 普通地方公共団体」からであって、「第1編 総則」には「区域」は登場しない。まずは、憲法規定を受けた法律全体の目的であり(1条)、その後、国と対比された地方公共団体(いわゆる自治体)の役割(1条の2)、地方公共団体の種類(1条の3)、法人格と事務(2条)、名称(3条)、事務所の位置(4条)、休日(4条の2)と続く。
 以上の「地方自治物語」が示していることは、自治体(地方公共団体)にとって根源的な要素は、「区域」ではなく、役割を担うために法人格のある複数種類からなる団体として事務を処理することである。団体である以上は名称が必要であり、事務を処理する以上は事務所が必要であり、また、事務をしない日としての休日を示すことになる。いわゆる休日は、住民や民衆あるいは事業者なども休日になっていることは多いが、そうでないことも多いように、基本的には、事務処理団体としての自治体の休業日ということである(2)
 仕事をする法人格を持つ団体は、必ずしも区域を持つ必要はない。むしろ、事務(function=機能)によって設定されている団体であるならば、その役割に応じて、区域に関わりなく事務処理をしてもよいかもしれない。

区域の重さ

 しかし、「第2編 普通地方公共団体」に至ると論調は変わる。役割・名称・法人格・事務・事務所を持つ団体としての自治体は、まずもって、区域が重要である(「第1章 通則」、5条~9条の5)。そもそも「通則」とは、市要件(8条1項)・町要件(8条2項)以外は、基本的には区域及び境界変更(3)に関わることに終始している。もっといえば、町村を市にすること、あるいは、村を町にすることも、手続的には境界変更の一種のように扱われている(8条3項)。要するに、「通則」とは名ばかりであり、実態は「区域」である。自治体(ここでは普通地方公共団体)は、まずもって、区域を持つというぐらい、自治体にとって区域は最初の要素なのである。
 ちなみに、「地方自治物語」は、「区域」の後には、「住民」(第2章)、「条例及び規則」(第3章)、「選挙」(第4章)、「直接請求」(第5章)、「議会」(第6章)、「執行機関」(第7章)、「給与その他の給付」(第8章)、「財務」(第9章)、「公の施設」(第10章)などと続いていく。
 特に重要なことは、「区域」の前に「住民」は存在せず、「区域」があって「住民」が初めてあり得るということである。「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」(10条1項)とは、そういう意味である。
 この点は、近世までの「ムラ」との決定的な違いである。近世までの「ムラ」においては、村民(百姓)の管理(耕作・入会など利用)する土地が、ムラの領域であったので、「ムラ」という人間集団が先に決まる。したがって、そのような村人が、別のところに移住(植民)して開墾・新田開発などすれば、そこもムラの領域となる。
 しかし、「地方自治物語」では、ある自治体Xの住民が区域Xから、別の自治体Yの区域Yに移住(引越し・異動)すれば、Xの住民ではなく、Yの住民になる、ということである。「区域なくして住民なし」なのである。したがって、「住民の(い)ない区域」は存在するが、「区域のない(/にいない)住民」は存在し得ない、ということになる(4)

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