2021.12.27 政策研究
第8回 市民意見を起点とし、予算・決算審議を連動させた「議会からの政策サイクル」~福島県会津若松市議会の取組み~
予算・決算審議を連動させた政策サイクル
会津若松市議会では、予算・決算審議の有機的な連動を目指し、2013年から予算決算委員会を常任委員会として設置している。また、政策討論会と同様に、委員会には四つの分科会を置き、四つの常任委員会の所属と同一となっている。
予算決算常任委員会の特徴的な取組みは、決算審議の9月定例会の約1か月前、予算審議の2月定例会の約1か月前に各分科会単位で開催される予算決算審査準備会である。準備会は複数回開催され、政策研究で得た知見を活用し、各委員が論点を抽出し持ち寄る。その論点は、「論点抽出表」というオリジナルのフォーマットに記入されて、総合計画と照合し、質疑により明らかにするべき事項について委員会で共有される。事業執行状況の監視と事業評価の位置付けとなり、議会の議論に厚みをつけている。
実際の予算・決算審議に際しては、執行部への質疑後、案件によっては議員間討議を行い、委員会として合意に至ったものは、「要望的意見」を取りまとめ、より重要だと思われるものは「決議」を提出することにより議会の意思を明確に示す。2021年9月定例会における決算審査で、決議が1件採択され、要望的意見が7件取りまとめられた。事業目的からして十分な効果を上げていない、また、疑義がある等の事業であれば、個人の意見ではなく議会の意思として積極的に指摘し、ただしていく。
会津若松市議会の議会改革の中心を担い、政策サイクルの確立に尽力してきた目黒章三郎議員も次のように話す。「重要なのは、議員個人ではなく議会という機関として対峙(たいじ)して提案すること。その目的は、政策やその運用の変更や改善(目黒議員は「政策の豊富化」と称す)によって住民福祉の向上につなげていくことにある」。
政策サイクルを駆動させるエンジンとしての「議員間討議」
政策サイクルを駆動させるエンジンとなるのは「議員間討議」である。会津若松市議会では、議会運営の申し合わせ事項の中で、議員間討議を提案するものに対して、1人以上の賛成者がいる場合に実施すると規定している。またその目的は、個人の意見の開陳ではなく、議論により争点や合意点を明らかにするためとしている。本会議であれ委員会であれ、議長と委員長の口述書には、質疑と討論の間に議員間討議を行うことの記述が入っているぐらい徹底されている。
質疑は、議員が執行部に対して疑義をただすもの。討論は、表決の前に議案に対して、賛成か反対かの自己の意思を表明すること。討議とは、ある事柄について意見を述べ合うこと。質疑と討論の間に、執行部を抜きにして議員同士で議論をする議員間討議を行い、論点・争点を明らかにし、合意形成を図る努力をする。それにより、市民に対しての議決説明責任を果たすことができる。
会津若松市議会が議員間討議で大事にしているのは、「対話(ダイアローグ)」の姿勢である。対話は、「意味付け」を確認し、「新しい関係性」を構築するプロセスだ。インドに、「郡盲象をなでる」という寓話(ぐうわ)がある。目の不自由な人たちが象を触って、その触った部分により、「象は扇子だ(耳)」、「蛇だ(鼻)」、「槍(やり)だ(牙)」、「木の幹だ(足)」等と評している様子だ。それぞれ部分的には正しく理解していても、全体像はつかめていないことを示している。人間の認知能力には限界があり、限られた合理性しか持てないことを、経済学では「限定合理性」という。多様な背景を持つ議員で構成された議会も同じだ。議員はそれぞれ、議案やその論点について様々な意味付けをしている。最初から賛否を表明し討論をしてしまうと、会派や議員個人のメンツが優先されて、話はかみ合わない。まずは、賛否を抜きにして、対話で各議員の意味付けを聴き合い、問題の全体像を確認する。そこから、どこまで合意できるのか、できないのかを詰めていく。象の全体像を探求するように、AかBかではなく、新しいCの答えを導き出そうと努力する。それが対話だ。
予算・決算審議においては、合意できれば修正若しくは付帯意見を付けることが可能になり、合意できなければ、討論、表決へと進むことになる。議員間討議による対話で、目黒議員の話す、「政策の豊富化」が図れることになる。