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2021.12.27 政策研究

第8回 市民意見を起点とし、予算・決算審議を連動させた「議会からの政策サイクル」~福島県会津若松市議会の取組み~

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早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員 佐藤 淳

《今回のキーワード》

  • 議会からの政策サイクル
  • 市民との意見交換会
  • 予算・決算審議
  • 予算決算常任委員会
  • 議員間討議
  • 対話
  • ドミナント・ロジック
  • 二刀流議会

 

 今回から、各回で取り上げるテーマを分かりやすくイメージしてもらう導入として、架空の自治体「ここち市役所」の議会事務局職員、江上慎吾を主人公とした「議会と議会事務局の変革ストーリー」【SHORT STORY】を記事の最初に設けることにしました。こちらも併せてお楽しみください。
 

【SHORT STORY】

 「議会が政策提言なんてできっこないよな」と、若手議会事務局職員の江上は、ここち市役所の地下の食堂で一人日替わり定食を食べながら自分を納得させるようにぼやいていた。午前中の議会改革推進会議が終了して片付けをしているときに、事務局歴の長い山田次長が、「無理無理無理。そんなことうちの議会で今までやったことないし」、「古江議員の話は、右から左に聞き流しておけばいいよ」と笑いながら話している顔が頭の中から離れない。
 発端は、会議の終盤で2期目の古江議員が発した「議会基本条例に、議会は政策提言を行うって書いていますが、今何もできていないのでは」、という問題提起。その発言に、議会の重鎮・青木議員が舌打ちしながら怪訝(けげん)そうな顔を示す。青木議員の様子を察して間髪入れずに同じ会派の赤平議員が、「我がここち市議会では、各議員が一般質問で市政に積極的に政策提言している。それでこれまで何も問題なかった」と。「いや議会基本条例の条文の主語は議会です。私が言いたいのは、議会として政策提言できていないってことですよ」と古江議員が食い下がる。どんよりとした沈黙の後、青木議員が恫喝(どうかつ)するように一言、「議会の役割は市政を監視することだ」。ここち市議会で青木議員に面と向かって反論する議員はいない。推進会議の委員長である安田議長もそうだ。「そろそろお昼のようなので。山田次長、次回の日程は」。
 昼食を早めに切り上げた江上は、事務局の席に戻り、来月開催予定の議会報告会の案内チラシを作成していた。議会報告会はいつも集客に苦戦している。そのとき、田島事務局長が笑みを浮かべながら近寄ってきた。田島局長は、ここち市初の女性議会事務局長だ。「江上君、福島の会津若松市議会について調べてみたら」。「会津若松って、あの白虎隊のですか」。「そうよ。会津若松の子どもたちは今でも、『やってはならぬ、やらねばならぬ、ならぬことはならぬもの』って小さい頃から教えられているらしいわよ」。江上も笑いながら、「調べなければならぬ、ですか」。

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会津若松駅前の白虎隊の像

 

議会からの政策提言の現状

 議会からの政策提言に挑戦している議会はまだまだ少ない。早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度調査2020」(2021年2月~3月実施、回答数1,404議会/回答率78.5%)によると、首長提出議案に対する議会の代案提示など原案可決以外の意思表示があるかについての設問で、委員会提案の修正案を可決した議会が71議会(5.2%)、議員提案による修正案を可決した議会が59議会(4.3%)、本会議付帯決議案を可決した議会が137議会(10.0%)、原案を否決した議会が107議会(7.8%)、決算不認定とした議会が16議会(1.2%)、専決処分を不認定とした議会が2議会(0.1%)、上記に該当する議決がない議会が1,069議会(77.7%)となっている。約8割の議会が、否決、修正案、付帯決議等の議案に対する議会からの代案提示を行っていない。
 また、特定の政策課題の解決・立案に向けた調査活動を議会が行う場合、常任委員会の所管事務調査の取組みについての設問で、調査を踏まえて政策案(条例案・提言集)に取りまとめている議会が198議会(14.4%)となっている。常任委員会単位で政策提言を行っている議会も約15%とまだまだ少数派だ。
 大正大学の江藤俊昭教授は、住民福祉の向上に資する議会になるために、「議会からの政策サイクル」の重要性を強調している。また、議会からの政策サイクルは、①起点としての住民との意見交換会(議会報告会)、②それを踏まえた決算・予算審議、③住民の意見を踏まえての委員会の所管事務調査をベースとした、政策課題の抽出と調査研究、政策提言、④これらの流れを束ねる総合計画を意識した活動、以上の四つのサブシステムに分解されるとする。
 これまでこの連載でも、議会からの政策サイクルの事例として、岩手県奥州市議会、宮城県柴田町議会の取組みを紹介してきた。今回は、「議会からの政策サイクル」のキーワードのルーツ(当初は「議会からの政策形成サイクル」)である福島県会津若松市議会の取組みを紹介する。会津若松市議会の政策サイクルは、市民意見を起点として政策提言に結びつけるものと、予算・決算審議を連動させたサイクルの2種類があり、それぞれがクロスしながらつながっている。

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歴史を感じさせる会津若松市議会の本会議場

 

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