2021.11.25 議会運営
第80回 取消対象発言に対する会議録原本の開示請求に対する対応
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
取消対象発言に対する会議録原本の開示請求に対する対応
市民が情報公開条例に基づき、市議会定例会において地方自治法(以下「法」という)129条1項により議長が発言取消命令をなした発言であり、配布用の議事録から削除された議員と長の発言部分に係る公文書の開示を請求した。その請求に対し処分行政庁である市議会議長が、公開請求者に対し、配布用の議事録から削除された文言を含む会議録原本を開示しない旨の決定をしたことは問題ない対応といえるか。
地方議会においては、標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)87条において配布用の会議録には、秘密会の議事並びに議長が取消しを命じた発言及び発言の取消し又は訂正の規定により取り消した発言は、掲載しないこととされている。この規定の趣旨は、議長が取消しを命じた発言又は発言の取消申出がなされて許可された発言は一般的に不穏当発言に該当し、住民に対してそれを公表することは議会の品位の観点から不適当であると解されることから、配布用の会議録に掲載しないこととしたものと考えられる。
【市会議規則87条】
前条の会議録には、秘密会の議事並びに議長が取消しを命じた発言及び第65条(発言の取消し又は訂正)の規定により取り消した発言は、掲載しない。
本問は、配布用会議録に掲載しないとして発言取消命令の対象となる発言及び発言の取消申出が許可された発言について、これらの発言をありのまま掲載している会議録原本への公開請求があった場合に、公開する必要が法的にあるかどうかというものである。
そこで、この公開請求があった場合の争点として考えられるのは、次の三つである。すなわち、
① 議長が発言取消しを命じた発言とそれに関連する長の発言が記録された情報、又は発言取消しが許可された情報が、各自治体における情報公開条例に規定する開示しないことができる公文書に該当するか否か。
② 市会議規則87条(の趣旨)が、各自治体の情報公開条例における「実施機関(市長を除く。)、附属機関、専門委員その他これらに類するもの(以下「合議制機関等」という。)の会議に関する情報であって、当該合議制機関等の議事運営規程又は議決により開示しない旨を定めているもの」と規定した場合に該当するかどうか。
③ 公開請求の対象となっている部分に記録された情報は、議長が取消しを命じた発言であるところ、これが配布用会議録に記載されると議場の秩序維持を図るという発言取消命令の趣旨が没却されるから、情報公開条例で規定する「開示することにより当該合議制機関等の公正又は円滑な議事運営が著しく損なわれるおそれがあるもの」に該当するかどうか。
という点である。