地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2021.11.25 議会改革

第24回 自治体議会の権限について改めて考える(2) ─資料による議決事項の概観─

LINEで送る

3 法律や政令における条例事項

 議会が議決により制定する条例は、自治体の自主法であり、法律の定めがなくても制定できるものであるが、その一方で、法律等において条例で定めることとしている事項も極めて多い。国法上の条例に関する規定について、どう評価するかは様々な議論がありうるところであり、いろいろな形で義務付け・枠付けや制限を行うことにより、むしろ自治立法権を縛るもの(限られた自由)との批判も見られる。しかし、かつてのように、機関委任事務の存在なども相まって、規則に委任したり、法形式を定めずに自治体や長が定める、措置を講ずるとしたりする規定が少なからず存在していたのと比べれば、議会制定法である条例で定めるように規定することは、法治主義や民主主義の観点からすれば一歩前進ともいえるのであり、また、不十分ながらも分権改革等を通じて義務付け・枠付けが緩和され、自治体の側の裁量も広がってきている(13)。仮に、条例の制定の余地や自由度を高めるために法律を大綱化した場合であっても、国の行政立法による対応が拡大する事態を避けるためにも、条例事項と規定しておくことが必要となる。
 そして、法律等において条例事項として規定されることについては、議会の議決事項とされていると見ることも可能といえる。実際、法律等において条例事項と定めるにあたり議会の議決を要することになることが念頭に置かれることも多く、加えて、議会の議決事項と条例事項との境界については相対的なところもある(14)
 法律や政令において条例で定めるとしている条項の数は、精査をすればある程度数は絞られることになるとは思われるが、D1-law.comの法令検索を通じてざっと数えたところでは項単位で1,000件をだいぶ超える。その規定の仕方としては、「条例で(……)定めなければならない」、「条例で(……)定める」、「条例で(……)定めるものとする」、「条例で(により、をもって)(……)定める(する)ことができる」、「条例で必要な○○を定めることを妨げるものではない」、「条例で(の)定めるところにより(による)」、「条例で定める〇〇」などの用例がある。
 他方、これらの法律等における条例に関する規定がどのような意味をもつかは、個々の規定の趣旨、目的、内容等によって判断されることになるが、条例を定めることが義務的な場合と任意的な場合とがあり(15)、また、条例に定めを委ねる場合、条例という制定法形式を求める場合、条例による補正を認める場合、条例を定める際に内容的な枠付け等をする場合などがある。法律等の規定に即し、必ず条例を制定して処理すべきとする場合、当該事項については条例によるべきことを定める場合、創設的に条例で定めることができるようにする場合、条例で定めることができることを前提にその範囲・限界等の制限を定める場合、条例の定めについて確認的・入念的・例示的に規定する場合などに区分することもできる。
 それらについて内容的に検討・分類して網羅的に列挙することは作業的な面・紙幅の面から困難なので、ここでは、表3において、地方自治法と同法施行令で条例事項とされているもののみを列挙しておきたい。これだけでも、かなりの数となるが、地方自治法以外の地方自治関係法令でも条例事項について規定するものが多く、特に地方税関係、地方公務員関係で目立つ。

【表3:地方自治法・同法施行令上の条例事項】

 他方、個別の行政分野では、①厚生、②国土建設、③教育文化、④警察消防、⑤環境の順に多く、厚生と国土建設の分野での多さが際立っている。
 以上の分析については、次回で行うこととし、その上で、議会の権限について総括的な考察を加えてみたい。

(1) 「議決事件」とは、広くは議会が行う議決の対象となる事項を指し、その場合には、同意、承認、許可、決定なども含まれることになるが、端的に地方自治法96条1項各号に列挙された事項を(それに加えて同条2項に基づき条例により追加された事項も)指す意味で用いられることもあり、ここでは、とりあえず、後者の意味で議決事件を用い、前者を意味するものとして「議決事項」を用いている。ちなみに、「事件」という言葉は、法令上は問題となる事項などを意味するものとして用いられているものである。
(2) このほか、96条1項15号では、「これらに基づく条例を含む」とされているが、これは、かつて同条2項に基づく条例による議決事件の追加の対象から法定受託事務が除外されていたことにも関連して規定されたものとされる。その後、一部を除き法定受託事務も対象とされたことに伴い、その余地は限定されることになったともいえるが、法律又はこれに基づく政令を根拠とした条例で定める議決事件は、同条1項で整理するのが妥当との議論もある。松本英昭『逐条地方自治法〈第9次改訂版〉』(学陽書房、2017年)355~356頁参照。
(3) ただし、農業保険法施行規則は、農業災害補償法施行規則(昭和22年農林省令第95号)を全部改正したものであった。
(4) このほか、決算について、地方自治法233条3項と地方公営企業法30条4項では「認定」という用語が用いられているが、決算の認定については、地方自治法96条1項3号で議決事件とされている。
(5) 自治体議会の権限の分類については、本連載第4回参照。
(6) なお、俵正市=館野幸夫『注釈・判例地方議会法』(学陽書房、1968年)72~73頁では、「任命その他の行政行為ならびに議員の身分事項等について、その有効要件として議会の同意を要するもの」を議会の同意権とした上で、議会の同意を要する事項とされているものについての「同意」、「承認」、「許可」の使い分けに関し、「原則として『同意』は議会と対等の関係に対するとき、『承認』はやや下位に立つと考えられる機関に対するとき、『許可』は議会の紀律に服する機関に対するときに使用されるのが普通である」とする。しかし、「承認」の用例については、対等な関係におけるもの、事後の同意の場合も含まれるなど統一的な説明は困難であり、「同意」についても別の説明が当てはまるものも見られる。
(7) 清水克士「大津市議会意思決定条例─議会の『常識』を変える」自治体法務研究51号(2017年)63~67頁。
(8) 清水・前掲注(7)64頁。
(9) その点では、表1と表2の発案者等の欄の「議員」には、特に議員のみに限定される場合を除き、委員会が含まれることにも注意されたい。
(10) 執行機関である委員会・委員が議会の議決を経るべき事件に関する議案の提出権を有しないとする地方自治法180条の6、地方公営企業の管理者が議会の議決を経るべき事件に関する議案の提出権を有しないとする地方公営企業法8条1項では、それぞれ法律(法令)に特別の定めがある場合はこの限りでないとしているが、現行法上特別の定めはなされていない。
(11) 例えば、野村稔=鵜沼信二『地方議会実務講座〈改訂版〉第1巻』(ぎょうせい、2013年)58頁は、地方自治法96条1項10号の権利の放棄について「執行権に属する事項であるから、提案権は長に専属する」とする(川村毅「議会の議決権」井上源三『最新地方自治法講座5 議会』(ぎょうせい、2003年)152頁も同旨)。しかし、大東市債権放棄議決事件では、第1審判決が認めた損害賠償請求権につき権利の放棄を行う旨の議案は議員から提出されており、控訴審判決は当該議決を適法とし、最判平成24年4月20日裁判集民240号185頁も議員提出を問題としていない。さくら市債権放棄議決事件の場合も議員提出であり、最判平成24年4月23日民集66巻6号2789頁を受けた差戻控訴審・東京高判平成25年5月30日裁判所ウェブサイトは、議決を有効とした。両書では、同項11号の重要な公の施設の長期かつ独占的な利用についても、公の施設の管理権は長にあるので議案の提出権は長に専属するとするが、同様に議員の提案の余地を否定できないようにも思われる。
(12) 長の法定期日前の退職の申出に対する議会の同意についても、議長が「○○から○年○月○日をもって退職することについて議会の同意を求められました。これに同意することにご異議ありませんか」と諮るのが一般的であるが、議案による場合には発案権は議長にあるとされている。
(13) これに対しては、国の法律で条例に授権するのではなく、法律の規定について、その規律密度を下げ、基本的な制度設計を定めるにとどめるなどして大綱化・枠組法化することで、自治体側の判断により条例で定める余地を広く認めるようにすべきとする議論もある。しかし、現実問題として考えた場合に、法制度のあり方を一気にそのような形とすることは困難であるだけでなく、妥当ともいえず、まずは、条例への授権範囲を大幅に拡大したり、包括的な授権としたり、条例による選択肢を複数用意したり、地域の実情に応じて設定すべき基準等を条例で定めることができようにしたり、条例により法令の規定に代わる特別の定めを認めるなど法令の内容の補正をできるようしたりすることなどが模索されるべきだろう。なお、法律において条例事項とすることについては、条例への委任と捉えられることも少なくないが、下位の命令である政省令への委任と同視すべきではなく、役割分担的なものとして捉えていくべきであり、その観点からは、その法律の規定は概括的なもので足りることは、本連載第9回で言及した。
(14) 例えば、地方自治法96条1項各号に掲げられる議決事件の中には、条例で定められることになっているもの(地方税、分担金・使用料等)のほか、条例によることもありうるものがある(例えば権利の放棄等であり、神戸市債権放棄議決事件(最判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁参照)では条例により権利が放棄されたものであった)。ちなみに、条例の形式による場合には、それは団体意思の決定ということになる。また、現在においては条例事項とされている公の施設の設置に関する変遷等については、次回に述べる。
(15) その際には、法律等で定める自治体の事務や措置が義務的なものか任意的なものかということも問題となりうることになり、前者の場合においても条例の制定が義務的なものと任意的なものとがある。他方、法律上、条例の制定が義務として規定されている場合でも、地方自治体の基本的な事項・組織などのように、義務化しなくても当然に定められるものもあり、その場合には、義務というよりは、その必要性の確認や法形式の指定をしたものと見ることも可能である。

バナー画像:尾瀬©ridge-SR(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))を改変して使用

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る