地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2021.10.25 政策研究

第19回 中心性(その5)

LINEで送る

合併主義と連携主義

 全ての自治体、特に全ての市区町村で、一通りの政策・事業を全てそろえるフルセット主義は、当然ながら行政資源という費用がかさむ。高度成長期であっても、自治体が自ら賄うことは、ほとんど考えられてこなかった。フルセットを整備する費用は、国からの補助金獲得競争で賄う。国の財源が高度成長によって潤沢であり、かつ、政権与党が地方圏への利益誘導に好意的であれば、今すぐにはフルセットの施策・施設を提供できないにせよ、中長期の将来的には、こうしたフルセット整備を目標として掲げてまい進するフルセット主義は、それなりに許容されていた。
 21世紀においては、こうした条件は失われた。アベノミクスに典型的に見られるように、1990年代からすでに一世代30年を超える長期経済停滞が生じている。また、政権与党は、小選挙区制導入(定数不均衡是正)後の自らの党利党略的な延命のために、衆議院議員定数配分の少ない地方圏・条件不利地域への利益誘導に否定的になり、むしろ、(財政)構造改革と称する緊縮と、格差拡大・不平等容認に舵(かじ)を切った。この中で、フルセット主義の放棄を自治体に促すことが模索されている。
 国政政権与党が推進したフルセット主義を破壊する一つの方策が、「平成の市町村合併」であった。つまり、市町村ごとに最低一つは整備するフルセット主義は、市町村を減らしてしまえば、リストラできる。例えば、A、B、C、D、Eと5町村あれば、フルセット主義に立つ場合、合計で最低五つの施設が必要になる。しかし、A、B、C、D、EをX市として1市に合併してしまえば、フルセット主義を維持しても、施設は一つでよい。つまり、既存施設が五つあれば四つは廃止できるし、既存施設が一つならば、今後の四つの施設の増設は中止できる(6)。こうして、かつて目指されていたA、B、C、D、E各区域へのフルセットの配備は阻止され、名目的にはともかく、実質的にフルセット主義を放棄したことになる。
 市町村合併をしない場合には、あるいは、ある一定以上は市町村合併が進まないと見込まれる場合には、フルセット主義を放棄し、連携主義に切り替える。つまり、A、B、C、D、Eの5町村のそれぞれに施設を整備するのではなく、5町村が合併しないまま、連携して施設を整備して、A、B、C、D、E全ての住民が利用できるようにする。この場合、例えば、施設はA町のみが持つ。しかし、利用はA、B、C、D、Eの全ての住民である。当然ながら、費用負担もA、B、C、D、Eの全体で連携分担することになろう。そうでなければ、A町に対して、B町、C町、D村、E村はフリーライド(ただ乗り)することになるので、不公平感が生じるからである。
 もっとも、A町が設置するA町内に所在する施設なのであるから、近接性の観点から、やはりA町民が使いやすく、B、C、D、E住民からすれば、不便感が残るかもしれない。ならば、より利便性の高いA町がより多くの負担を負うのも当然ともいえる。もっとも、そうなると、多く負担しているのだから、発言権も大きくて当然という話になり、A町の好きなように施設のあり方が歪(ゆが)められていくかもしれない。
 こうした合併主義と連携主義は、フルセット主義の名目を維持するかどうか、あるいは、合併をするかしないか、に関して正反対に見える。しかし、サービス提供拠点と住民からのアクセスと利便性という点から見れば、同じことである。要するに、A、B、C、D、Eの全てに配備されるのではなく、例えば(旧)A町のような、特定の区域又は地点に、サービス提供拠点が集中して配備され、A、B、C、D、Eの各住民からの近接性には違いが生じるのである。そして、A、B、C、D、Eの中では、(旧)A町が中心性を帯びる。(旧)B町・(旧)C町・(旧)D村・(旧)E村は周辺性を帯びる。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る