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2021.10.25 政策研究

第19回 中心性(その5)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

フルセット主義

 現代日本の市区町村は、基本的には、全ての政策・事業に関して、住民から要望を受け得る立場にある。しかし、現実の市区町村には、事務権限がない場合もあれば、財源・人員が足りない場合もあれば、区域の限界から対処できない場合もあるので、住民からの要望に応じることができるとは限らない。もちろん、住民が市区町村に要望すること自体を、市区町村は止めさせることはできない。そこで、事務権限がない、財源・人員が足りない、区域が狭い、などと弁明することになろう。このメカニズムは、都道府県においても成立する。
 反対に、住民の要望に応えようと思う自治体為政者は、
 ① 事務権限(法的行政資源)を増やしたい
 ② 財源(財政的行政資源)・人員(実働的行政資源)を増やしたい
 ③ 区域(行政資源調達ができる空間的範囲(なわばり))を拡大したい
などと考えることもある。このようなメカニズムが、自治体の総合性という指向性である(1)
 現代日本においては、潜在的には、全ての政策・事業について、自治体は関心を持ち得る。また、持って可(よ)いとされる。これは、「一般権限性」あるいは「権限を持つ権限」といわれる。つまり、「一般権限性」とは、法令で明示的に付与された「限定列挙権限」だけを持つのではなく、広く権限を持つと推定されるということである。「権限を持つ権限」とは、自分がいかなる事務事業をする権限を持つべきか自体を、自分で検討して決定するメタレベルの権限である(2)。なお、「権限を持つ権限」は、事務事業をしないことを決めることもできる。いわば、「たらい回し権」もある。
 そして、自治体は、その活動量を拡大しようとする(3)。そのためには、行政資源を拡充することが必要になる。潜在的な行政資源の調達可能性(潜在能力)を拡大する③に対応するのが、吸収する側に立つ市町村合併である(4)。そして、合併すると、結果的に②が実現するように見える。また、①は、「事務権限の委譲を進める戦略」であるが、事務事業が増えれば、当然ながらそれに連動して、財源・人員の拡大を国に要求する根拠になる(5)
 こうして目指されるのが、可能な限り幅広くたくさんの政策・事業を担当する自治体像である。それは、総合性の追求であり、総合行政主体の確立への動きである。総合行政主体としての自治体は、全ての施策・事業・施設を自ら提供することができる。例えば、隣の町が箱物を整備するのであれば、住民が隣町に行く必要がないように、自分の町でも箱物を整備する。医療・介護・福祉・保健・衛生など、住民生活に関連する事業は、全て当該自治体で一括して対処する。一通りの政策・事業のラインアップをそろえる。こうした状態がフルセット主義である。

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