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2021.10.25 議会改革

第23回 自治体議会の権限について改めて考える(1)─議決事件─

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(1) 「議決」は議会における意思決定の総称であり、表決の結果得られた議会の意思決定である。多数決による意思決定であり、選挙を除き、議会におけるすべての意思決定は議決によることになる。決議が議決と区別されることもあるが、実際上・実務上の区分にとどまるものといえる。
(2) なお、大津市議会は、市議会の意思決定に係る機動性の確保及び手続の明確化を図ることを目的として「議会意思決定条例」という独創的な条例を制定しているが、そこでは、議会の意思決定を団体意思の決定と機関意思の決定に区分し、それぞれの決定手続及び決定権限について定めている。
(3) 「議案」という概念をどのように捉えるかをめぐっては、広狭様々な議論や用例があり、広くは、議会において議決を要する案件で動議を除いたものといった捉え方もあるが、具体的な内容を有し、議決の対象として独立している案件であることが必要との考え方もある。地方自治法では、109条6項、112条、115条の3、149条1号、180条の6第2号で「議案」という文言が用いられており、その場合には団体意思の決定に関するものなどとして限定的に捉えられているが、実務上は、議会の会議に付して会議の議決やそのほかの方法により処理すべき事項及び議会がこれを処理するために付随的に処理しなければならなくなった事項を総称する広い概念として用いられているようである。本稿では、具体的な内容を有し、議決の対象として独立している案件で、議員(委員会を含む)又は長によって提出されるものとして「議案」を用いることとしている。
(4) 議会の委員会にも議案の提出権が認められているが、ここでは、それも広い意味での議員発案に含まれるものとして扱うこととしたい。したがって、発案権の主体として議員を挙げる場合には、特に議員だけに限定される場合を除き、委員会も含まれているので、ご留意願いたい。
(5) ちなみに、全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会の標準会議規則では、いずれも地方自治法112条2項の適用がある議案以外のものについても〇人以上の賛成者を必要とする規定となっているが、賛成者要件を設けるかどうかも含め、あくまでもそれぞれの自治体議会の判断によることになる。
(6) 特に団体意思の決定なのか、それとも執行機関の執行の前提としての意思の決定なのか区分がつきにくいものがあり、また、団体意思にかかわる議決事件であっても、議員にも発案が認められるものかどうか判断がつきにくいものや形式的にはあるとしても実際上は議員による発案がほとんど考えられないものなども見受けられ、これらに関する解説も一様ではないことが少なくない。
(7) 松本英明『新版 逐条地方自治法〈第9次改訂版〉』(学陽書房、2017年)367頁は、96条の解説において「議会の議決により団体の意思が決定する場合は、一般には本条第一項に掲げた十五項目の場合」であり、「本条に掲げられた項目についての『議決』は、団体意思の決定に係る『議決』である」としつつ、その後に括弧書で「内容的には、議決が団体の意思の決定となる議決(1Ⅰ・Ⅱ等)と執行機関の執行の前提としての議決(1Ⅴ等)がある」とする。
(8) 山口憲明「議会における議案提案」井上源三編『最新地方自治法講座5 議会』(ぎょうせい、2003年)254~270頁。
(9) 例えば、山口・前掲注(8)259頁では、「地方自治法96条1項14号の規定に基づく区域内の公共的団体などの活動の総合調整に関することについて議会の承認を求める議案は、長の執行行為の前提要件について議会の承認を求める議案であるが、この提案権は議員にもあると解されている」とするが、議会の総合調整の権限は「長の行う公共的団体等の活動に対する総合調整の方針につき議会の意思を反映させようとするもの」(昭和24年1月13日行政実例)とされており、そうであれば、その個々具体的な調整は長の権限であるとしても、その方針の決定は団体意思の決定(長はそれに基づき執行)と捉えた上で発案権が議員と長の双方にあるとする構成・解釈も可能なようにも思われる。
(10) そのほかに、直接請求に基づく副知事・副市町村長その他の主要公務員の解職の同意(地方自治法87条)、選挙の投票の効力に関する異議の決定(同法118条)、議員の資格決定(同法127条)なども対外的に直接法的効果を生ずるものとされている。
(11) このほか、布施市公会堂事件・最判昭和28年6月12日民集7巻6号663頁は「市議会の議決は法人格を有する市の内部的意思決定に過ぎないのであつて、市の行為としての効力を有するものではなく、従つて市を被告として不存在又は無効確認を求めることは全く無意味である」、「市議会議員なるが故にこのような確認を求める利益を有すると主張するのであるが、なるほど市長は市議会の議決に拘束されるけれども、このような執行機関と議決機関との関係は市の内部の機関相互間の関係であつて若しその間に紛争があるならば市が内部的に解決すべく、訴訟をもつて争うべき問題ではない」として、また、最判昭和29年2月11日民集8巻2号419頁は、「村議会の予算議決は、単にそれだけでは村住民の具体的な権利義務に直接関係なく、村長において、右議決に基き、課税その他の行政処分を行うに至つてはじめて、これに直接関係を生ずるに至るのであるから、本件村議会の予算議決があつたというだけでは、未だ行政処分はないのであり具体的な権利義務に関する争訟があるとはいえず、従つて裁判所法三条の『法律上の争訟』に当るということはできない」として、議決の法律上の争訟性を否定し裁判の対象とはならないとの判断を示している。
(12) 横浜市保育園廃止訴訟判決は、「条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが、本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる」と判示した。
(13) 高松高裁判決は、「出席議員」とは、採決の際に議場にいる議員であって当該事件につき適法な表決権を有する者のうち有効な可否の表決をした者をいい、適法な表決権を有する者であっても表決に加わらなかった棄権者及び無効投票(白票)をした者はこれに当たらないなどとも判示する。もっとも、それらの判断については、事案解決には不要なものであったのであり、上告審の最判昭和30年12月2日民集9巻13号1928頁は、上告人等が本訴提起の法律上の利益を有しないものとする以上、原判決が本件合併についての県議会の議決の違法の主張について判断をしたのは不要の判断を加えたものというべきとしている。
(14) そのほか、神戸市債権放棄議決事件・最判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁は、自治体の債権の放棄について、その議会の議決及び長の執行行為等という手続的要件を満たしている限り、その適否の実体的判断については、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される議会の裁量権に基本的に委ねられるが、住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合については、個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、当該議決の趣旨及び経緯、当該請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが自治体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であってその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となるとの判断を示している。
(15) 懲罰に関する議決や辞職勧告決議と国家賠償責任については本連載第18回「議員の懲罰等とそのあり方」で述べた。また、条例の制定行為と国家賠償責任については、国会の立法行為に関する最判昭和60年11月21日民集39巻7号1512頁・最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁を踏まえ、「地方議会の議員は、条例の制定に関しては、原則として、住民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の住民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないから、地方議会の条例の制定行為が国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるのは、当該条例の内容が憲法又は法律の一義的な文言に違反しているにもかかわらず議会があえてこれを制定する場合や、当該条例の内容が住民に憲法上又は法律上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合など、容易に想定し難いような例外的な場合に限られる」とした裁判例(さいたま地判平成28年9月28日判例地方自治425号10頁)がある。このほか、やや特殊なものとして、住民訴訟において議会の内閣総理大臣等の靖国神社公式参拝を要望する旨の意見書の議決は違法との判断を示した岩手靖国訴訟・仙台高判平成3年1月10日行裁例集42巻1号1頁などもある。
(16) 予算外義務負担行為については、「歳入歳出予算を以て定めるものを除く外、あらたに義務の負担をし……」と定める地方自治法96条1項8号(当時)により議決事件とされていたが、1963年の改正で、債務負担行為として予算の中に含められ、独立の議決事件ではなくなった。
(17) このほか、戦前の町村制時代のものではあるが、町村有不動産の管理処分及び取得に関する行為は、町村会で議決すべき事項であり、このような事項については、町村長は原則として単にこの発案及び議決を執行すべき権限のみを有するにすぎないから、町村長が町村会の議決を経ずにしたこれらの行為は、全くその権限の範囲外に属し、町村に対してその効力がないことはもちろん、これをもって町村長の職務執行行為とすることはできないとした大判大正8年10月9日民録25輯1783頁などもある。
(18) 大判昭和16年2月28日民集20巻264頁。
(19) 例えば、仙台高判昭和31年12月4日下級民集7巻12号3541頁は、市町村のような公法人であっても、その所有財産の譲渡のようないわゆる非権力的作用については民法110条の適用があると解すべきであるが、市町村長の代表権限は法律の明定するところであるから、市町村長が市町村議会の議決した範囲を逸脱して行為したような場合は格別、全然議決の存しないときは、同条の適用の余地はほとんどないものというべきとする。
(20) 東京高判平成24年7月11日判例地方自治371号29頁は、市が、設計事務所と締結した市庁舎建設基本設計業務委託契約を解除し、当該設計事務所に対して精算金を支出したことについて、当該精算金は損害賠償の性質を有するものであるから、市議会の議決が不可欠であったにもかかわらず、議決なしに行われた本件支出負担行為は、地方自治法96条1項13号に反する違法なものとして私法上無効であり、法律上の原因を欠く支出であるとの判断を示し、当該設計事務所に不当利得返還、市長等に損害賠償を請求することを命じた。
(21) 法令の規定に違反する契約の私法上の効力に関する阪南町土地売買契約差止請求事件・最判昭和62年5月19日民集41巻4号687頁、倉敷チボリ公園事件・最判平成16年1月15日民集58巻1号156頁など。
(22) 例えば、前掲注(21)に挙げた最高裁判例よりも前のものであるが、東京高判昭和53年11月16日判時918号813頁は、地方自治法96条1項6号・237条2項が公有財産の交換に条例の定め、議会の議決を要するとしたのは、公有財産の処分を長の単独専行に委ねず、条例制定権、議決権を有する議会による抑制を加えることにより、当該自治体における地方財政の民主的かつ健全な運営をはかるためであることを考えると、これらの法条違反の交換契約は無効であるとする。このほか、町有財産の貸付契約が、条例又は町議会の議決を経ることなく適正な対価なくしてされたものであるとして、地方自治法237条2項に反し無効であるとした裁判例(広島高判昭和55年6月23日行裁例集31巻6号1388頁)などもある。
(23) 2(2)で触れた最判平成30年11月6日が破棄した原審の広島高判平成29年3月9日判例地方自治442号64頁は、地方自治法237条2項の議決があったということはできず、本件売渡しは違法として、適正な対価との差額分について市長の損害賠償義務を認めたが、これは契約そのものは有効との前提に立ったものと見ることもできる。また、動産の場合には、平穏にかつ公然と占有を始めた第三者が善意無過失であるときは民法192条により即時取得することになる。
(24) 例えば、村長が議決機関でない村議会の全員協議会の議を経ただけで村の公金を支出したのは違法ではあるが、その後村議会において支出の原因である売買契約の締結及びこれに伴う支出を議決したときには、支出の瑕疵は追認により治癒されたとした仙台高判昭和33年4月15日行裁例集9巻4号713頁、町が用地買収に当たり売渡人に追加支払した代金の一部の支出行為につき地方自治法96条1項5号による議会の議決を経なかった瑕疵が、第一審判決後、議会が追認の特別議決をしたことにより治癒されたとした大阪高判昭和53年10月27日行裁例集29巻10号1895頁、町議会の議決を経ないでなされた町有地と道路予定地の交換契約について、当該契約に係る住民訴訟の第一審判決後、議会が契約を追認する議決をしたことにより契約締結上の瑕疵は治癒されたとした名古屋高判平成10年12月18日判タ1027号159頁(差戻控訴審・最決平成11年6月10日により確定)などの裁判例があり、裁判所は事後の議会の追認の議決によって瑕疵の治癒を認める傾向が見られる。
(25) 内務省編『改正地方制度資料・第1部』(1947年)「地方制度改正関係答弁資料」1236頁。
(26) なお、96条以外では、機関委任事務について長に説明を求め意見を述べる権限、100条調査権、請願の受理・処理結果の報告の請求の権限、議案の議員一人での提出を認めたことなど、議会の権限の拡充が図られている。
(27) GHQは、1948年2月に、地方自治法改正に関する総司令部案を日本政府に示し、地方自治法を改正するよう指示したが、その中で、96条の改正として、地方自治体に特別に委任される権限をできる限り詳細かつ網羅的に列挙することを求めた。このGHQの96条改正案はアメリカのホームルール・チャーターを想起しながら作成されたものであったともいわれる。自治大学校研究部監修・地方自治研究資料センター編『戦後自治史 第七巻』(文生書院、1977年)194~199頁参照。
(28) 地方財務会計制度調査会の1962(昭和37)年の「地方財務会計制度の改革に関する答申」では、「契約の締結、財産の取得のように議会の議決によって成立した予算の執行に係る事項は、契約及び財産に関する規定の整備とあいまって、執行機関の責任において処理することとし、議会は、執行機関の説明を求め、調査、検査を行ない、または監査委員に監査させる等の方法により、その適正な処理の確保をはかるようにすることが望ましい」との見地から、条例で定める重要な財産の取得や契約の締結等についての議会の議決は要しないものとすべき旨の答申を行い、当時の自治省も地方自治法改正法案に取り入れようとしたが、全国三議長会を中心に自治体議会側が反発・反対し、協議の結果、条例で定める面積、金額の基準を政令で定めることで合意をしたものといわれる。
(29) 従来は、応訴する場合も事件に関する取扱い及び方針について議決する必要があるとして議会の議決事項とされていたのに対し、最大判昭和34年7月20日民集13巻8号1103頁が、自治体が地方自治法243条の2第4項(昭和38年法律99号改正前)の訴えに応訴する場合には議会の議決を必要としないとの判断を示したのを受け、改正されたものである。
(30) このほかにも、議会と長の対立・抗争による行政の混乱、議会や議員の具体的な執行への介入による議決機関と執行機関の責任分担の混乱・問題などもあったといわれる。
(31) その理由について、1946(昭和21)年の第1次地方制度改正における政府の答弁資料では、「地方議会の議決事項に関しては、所謂制限列挙主義と概括例示主義とがあるのであり、府県会においては従来から制限列挙主義を採り、市町村会においては、従来概括列挙主義であったものを昭和十八年の改正で制限列挙主義に改めたものである。地方団体の処理すべき事務は益々煩瑣複雑化することを予想せられるが、この間に処して地方行政の能率的運営を図り処務の敏活を期すためには、地方議会の議決事項はこれを比較的重大なる事項に限定するといふことがどうしても必要で、只単に概括的形式的に一切の地方団体の事件は地方議会でその意思を決定し、その決定を執行機関が執行すると云ふことは、適当でない」としていた。前掲注(25)『改正地方制度資料・第1部』1235頁。これに対し、GHQは、前掲注(27)で触れたように、その後、それを継承した地方自治法96条の規定について、概括的で具体性に欠けるとして、できるだけ地方自治体が条例制定権を有する事項を詳細かつ網羅的に列挙する規定とするための改正を求めたのであった。

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