2021.10.25 議会改革
第23回 自治体議会の権限について改めて考える(1)─議決事件─
(3)議会の議決を欠いた行為の効力
それとともに、議会の有効な議決を欠いた行為の効力についても問題となりうるが、この問題についても、議会の意思決定の分類との関係から論じられることが多い。
まず、団体意思の決定としての議決の場合、その議決を欠いた行為については、原則として無効となるとする。例えば、最判昭和35年7月1日民集14巻9号1615頁は、学校校舎建築工事資金の調達のための手形の振出し行為について、予算外で新たな義務を負担する行為(16)に当たり、議会の議決を欠くときは、当該手形を振り出す行為は「無権限の行為」として無効となるとの判断を示している(17)。もっとも、例外的にではあるが、相手方の信頼や取引の保護などの点から、議会の有効な議決を欠いた行為であっても有効とみなされることがありうる。民法の表見代理の適用が認められる場合であり、例えば、村会で1,000円の借入れの議決があったにもかかわらず、村長が決議書を偽造し7,000円を借り入れた場合について、民法110条の適用があるとした判例(18)などがある。議会の議決の範囲を逸脱した場合にその適用が認められたものであるが、その一方で、議会の議決そのものを欠いた行為については、裁判例を見ると、表見代理は適用されないことが多いといえる(19)。
また、機関意思の決定としての議決についても、懲罰のようにそれが法的効力を有する場合には、有効な議決を欠いた行為は無効となるが、それ以外の場合には、対外的な効力をもたず、その効力について論ずる意味はない。
他方、執行機関の執行の前提としての議会の議決を欠いていた場合であるが、これについては、行為をするのは執行機関の権限であることから、議決を欠いていたとしても直ちにその行為自体が無効となるわけではなく、基本的には議会の議決という手続等に関する瑕疵(かし)の問題として捉えられることになる。
その場合の執行機関の行為の効力については、行為の性質、議会の議決を必要とする理由、行為の相手方の信頼や利益の保護の必要性などを考慮して判断されることになるものと思われるが、執行機関の行為が行政処分の場合には重大明白な瑕疵があるものとして無効となると解されることが多い。地方自治法96条1項13号の議会の議決を経ないでした支出負担行為(損害賠償)について、私法上無効とした裁判例などもある(20)。
これに対し、契約の場合には、判例(21)を踏まえるならば、法令の規定に違反した契約が無効となるのは、これを無効としなければ議会の議決について定める法律等の規定の趣旨を没却する結果となる特別の事情がある場合に限られることになると考えられるが、議会の議決が必要であることは法律等で規定され、契約の相手方はそれを知り又は知りうるべき立場にあるということができ、契約を有効とすることは議会の議決を必要とする法の趣旨を没却することになりかないことなどを考慮すると、基本的には無効とされることになるのではないかと思われる(22)。ただし、例えば、先に触れた地方自治法237条2項の適正な対価なくして行う財産の譲渡等に関する議決については、当該譲渡等が適正な対価によるものであるか否かは評価にかかわる事項であって見解が分かれることもありうること、特に同法96条1項8号の財産処分の議決あるいは予算の議決はあったものの、237条2項の議決を欠いたという場合には、契約の相手方の保護(取引の安全の考慮)の必要性が高まるとも考えられることなどから、同項が自治体の健全かつ公正な財政運営の確保を主眼とするものであったとしても、例外的に契約が有効とされることもありうるのではないかと思われる(23)。
いずれにしても、執行機関の行為の有効・無効については、個別の事案に応じ裁判所の判断に委ねられることになる。
なお、議会の議決を経ずして行われた行為について、事後に議会の議決によって追認された場合には、その瑕疵は治癒されたとして、有効とされることもある(24)。ただし、議会の議決を欠いた行為について、事後に議会の議決や同意があったからといって、その行為の性質・内容、議決を欠いた経緯、その後の状況などに関係なくすべて瑕疵が治癒されるとは限らず、また、議会の側も、無効とされた場合に公益を著しく害するような事情の有無、行為の相手方の保護の必要性なども考慮しつつ、追認の是非について慎重に検討すべきだろう。