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2021.09.27 議会改革

第22回 議員の職務の公正性と兼業禁止・除斥

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3 議員の除斥

 自治体議会の議長及び議員は、自己又は父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件や、自己又はこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない(地方自治法117条)。
 この議員の除斥は、議員の職務が公的なものであり、公正性を要求されることから設けられた制度であり、議員が、自己やその親族と利害関係があるとされる事件の審議に参与することとなる場合には、その議員のほか、議会が公正な判断を下すことが困難となりかねないこと、また公正な判断をしたとしてもその判断の公正を疑われる可能性があること、該当する議員一人の力が会議の議事に決定的な影響を及ぼすことがありうることなどを理由とするものである。
 議員の除斥の規定は、1888(明治21)年の市制町村制、1890(明治23)年の府県制に既に規定があり、市制町村制では議長と議員の除斥が別々に規定され、議員については自己と父母兄弟・妻子の一身上に関する事件につき「表決ニ加ハルコトヲ得ス」とされていたのに対し、府県制では、議員の除斥のみが規定され、「会議ノ承諾ヲ経ルニ非サレハ府県会ノ議事ニ参与シ及議決ニ加ハルコトヲ得ス」とされ、会議の承諾があれば議事だけでなく議決にも加わることが認められていた。その後の改正により、いずれも議長及び議員の除斥の規定とされ、除斥の人的範囲に「祖父母」と「孫」が追加され、議会の同意がある場合には会議に出席し発言できることとされた。地方自治法の規定は、おおむねそれを引き継いだものであるが、1956(昭和31)年の改正で、従来の規定は必ずしも明確ではなかったとして「一身上に関する事件」に「又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接利害関係のある事件」が付け加えられることとなった。
 なお、委員会に関しては、委員会条例で同様の規定を置くのが通例である。
 議員が除斥に該当するとされた事件については、その議事に参与することができないが、当該事件の審議・表決に加わることができないだけでなく、当該事件が議題になった後から採決が終了するまでの議事に出席することを認めないとするものである。ただし、議会の同意があった場合には、会議に出席し、発言することができるが、発言が終われば速やかに退席することが必要となる。
 除斥の人的範囲は、議員本人のほか、父母、祖父母、配偶者、子、孫、兄弟姉妹であり、養親子関係も含まれる一方、配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹や子・兄弟姉妹の配偶者は含まれない。
 一身上に関する事件は、当該特定の個人に直接的かつ具体的な利害関係のある事件を指し、例えば、条例で定める契約の締結、条例で定める財産の取得・処分、議員の資格決定、議員の懲罰、副知事・副市町村長の選任、監査委員の選任、公有財産の交換・譲与等の議決などがあるが、地方自治法が定める議事に限られるものではない。また、従事する業務に直接の利害関係のある事件については、自己又はその近親者にとって直接的・具体的な利害関係のある事件に限定され、利害関係は認められても、利害が間接的なものや反射的なものは対象とはならない一方、「従事する業務」には、職業のみならず社会生活上の地位に基づいて行う継続的な事務・事業も含まれ、それに該当する限りいわゆる名誉職的なものも含まれると解されている(26)。したがって、例えば、議員が会社の代表取締役の場合だけでなく、小学校のPTA会長、任意団体である協議会の理事、農業協同組合の役員などの場合も除斥の対象となる一方、会社の一般従業員や商工会議所の議員である場合は原則として除斥の対象とはならない。
 除斥されるのは、それらに関する特定の事件に限られ、議員の報酬・費用弁償に関する条例のような議員全員に関わる一般的な事項については、除斥の対象とはならない。予算の審議についても、個々の内容では直接の利害関係を有する者であっても予算の一体性などから除斥されないものとされている。ただし、補助金交付の請願書が提出された場合に議員が当該団体の会長、理事等の職にあるときは、当該議員は当該請願の審議に当たり除斥の対象となる(昭和38年12月25日行政実例等)。また、「議事」に含まれない選挙や、一般質問などについても、除斥の対象とはならないといわれる。一般質問については、当該自治体の行政等について執行機関の見解を求めるもので、議会の意思決定を伴うことはなく、議決事件とは異なり議会の意思決定の中立公平性を害するほどの影響を及ぼすことはないとの考え方によるもののようだが、一般質問に関して除斥の規定の適用の余地が一切ないとまでいえるかどうかは議論もあるようだ。
 除斥の時期については事件が議題に供されたときとなるが、その判断については、本会議の場合、議会運営委員会における協議を経て、議長が最終的な判断を行い、本会議で除斥に該当する旨を述べて、当該議員の退席を求めることが多いようである。ただ、事件の内容によっては除斥に該当するか否かを判断することが困難な場合がありうるところであり、このような場合には、類似の先例があればそれを参考に、そのような例がなければ議長が議会に諮って決定することになるものと思われる。除斥の決定に際し、除斥となる議員から一身上の弁明の申出がある場合、弁明の機会の付与が義務となっている資格決定の場合とは異なり、これを認めるかどうかは議会の判断となるが、適正手続の面からは特別の支障がない限りこれを認めるようにするのが妥当だろう。
 なお、除斥議員が退席をしない場合、当該議員が審議に加わった議事は違法となることから、議長は直ちに審議を中止し、退席を求めることが必要である。
 除斥されるべき議員が加わった議決の効力については、無効となりうるが、常に無効となるかどうかをめぐっては議論が分かれている。例えば、除斥されるべき議員が議事に参与して行った議決が全会一致で可決された場合は、違法ではあるが当然無効とはならず、違法再議に付すべきとの考え方(昭和25年10月3日行政実例)がある一方、「一人の意見がよく全体の意見の形成に影響力をもちうる合議機関の特殊性」(27)から原則として無効となるとする考え方もあるが、事例によっては、無効とすべきかどうかをめぐり法的安定性等が考慮される場合もありうることは否定できないように思われる。
 また、除斥されるべきでない議員が除斥された上で行われた議決の効力についても、基本的には無効となるが、常に無効となるかどうかは同様に議論のありうるところだろう。

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