2021.09.27 議会改革
第22回 議員の職務の公正性と兼業禁止・除斥
【コラム:自治体議会議員の審議会等の委員などへの就任とその制限】
長などの執行機関は、その事務に関する審査、調査等を求めるため審議会等の附属機関などを設置しているが、議会の議員がその委員として参画していることが少なくない。執行機関の側としては、審議会等といった政策形成の一つのプロセスに議員が参画することで、議会における審議の円滑化につながるといった面がある一方で、議員の側としては、政策形成の初期段階における情報・資料の入手が容易となるほか、一種の名誉職として肩書を増やせるといった面があるともいわれる。
しかし、これに対しては、議会の議員が審議会等の委員となり、執行機関の政策立案の過程に参加することは、執行機関による議員の事実上の「とりこみ」につながりかねず、議決機関と執行機関の権限・機能の分立の趣旨から適当ではないとか、議会と執行機関との機関対立型をとる民主的な地方制度の趣旨に反するなどの指摘も見られる。また、議員が審議会等でその委員として述べた意見が議会全体の意見とみなされるなどの問題も生じているといった話も聞こえてくる。
この点、附属機関の構成員に議会の議員を加えることは違法ではないが適当ではないとする行政実例(昭和28年1月26日)などもある。また、近年は、全国市議会議長会の研究会が議員の審議会等への参画の見直しを提言したことなどを受け、各地の自治体において議会改革の一環として議員の審議会等への参画を見直す動きもあり、議員の審議会等の委員への就任は減少傾向にあるようだ。その場合、法令で定めのあるものを除き、議会において、審議会等の委員として就任することを取りやめることを要綱や指針で定めたり、決議・申合せを行ったりするところも見られる。全国市議会議長会の研究会からは、やむを得ず議員が審議会等の委員に就任する場合には、その役員には就かないようにするとともに、その審議内容等につき所管の常任委員会等へ報告するといった方策なども示されている。
国の法令に議会議員の委員就任に関する規定があるのは、都道府県都市計画審議会・市町村都市計画審議会(都道府県都市計画審議会及び市町村都市計画審議会の組織及び運営の基準を定める政令2条・3条)、空家等対策協議会(空家等対策の推進に関する特別措置法7条)、地方社会福祉審議会(社会福祉法8条)などである。ただ、そもそも国の法令で、審議会等の設置を義務付けるだけでなく、委員の構成に関し具体的に規定することについては、地方分権の観点から問題があり、真に必要な場合に限られるべきことはいうまでもない(24)。
なお、本文でも触れたとおり、自治体の中には、条例で地区の区長・自治会長、民生委員・児童委員、消防団長などとの兼職禁止を規定しているところもある。これらのうち、民生委員は都道府県知事推薦に基づく厚生労働大臣委嘱の非常勤特別職の地方公務員で、児童委員を兼ねるものとされており、消防団長は非常勤特別職の地方公務員で、消防団の推薦に基づき市町村長が任命するものとされている。これに対し、地区の区長・自治会長については、従来は非常勤特別職の地方公務員とする自治体が多かったが、2017年の地方公務員法改正により同法3条3項3号の特別職非常勤職員の要件の厳格化に伴い私人とするところと特別職非常勤職員のままとするところがあるようであり、その場合、市町村長の事務委託や委嘱によっている。また、民生委員と自治体議会の議員の兼職については、民生委員法制定当時は厚生省通知により遠慮してもらう方針がとられていたが、厚生省昭和26年6月11日通知「民生委員の兼職について」により、民生委員が公的保護事務の補助機関から協力機関へと切り替えられた事情などから従来の方針を継続することは適当を欠くとして、そのことを了知の上、地方の実情に応じて取り計らい願いたいとされた。いずれにしても、これらの職については、法律上の制限はなく、逆になり手不足の問題が顕在化しており、議員が兼職している例もそれなりにあるようだ。
ただ、その一方で、例えば、民生委員については、民生委員法で、職務上の地位を政治的に利用することが禁止されており、また、認可地縁団体の場合には地方自治法で特定の政党のための利用の禁止が規定されている区長・自治会長、そして消防団長についても、その地位の政治的利用をしてはならないことは当然である。
以上のような中で、議員のそれらとの兼職をどうとらえるかは、議論の分かれうるところであり、それぞれの自治体でしっかりと検討・判断すべき問題といったところだろう。
他方、勤労者が議員になろうとする場合には、法律上の制約だけでなく、企業の就業規則なども壁となっている。この点、労働基準法7条は公民権保障について規定しているが、公民権の行使には、被選挙権の行使や議員への就任も含まれ、就業規則上の従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の定めは無効とした判例がある一方で、公職への就任により労働義務の遂行が長期にわたり困難となる場合に普通解雇を行うことや、業務の正常な運営が妨げられる場合に休職とすることは許容されうると解されている(25)。このようなことから、29次地制調答申では、「立候補を容易にするため、これに伴う休暇を保障する制度や、議員活動を行うための休職制度、議員の任期満了後の復職制度等を導入することなどが考えられる」としつつ、この点については、労働法制のあり方やその背景となる勤労者の意識、勤務実態等にも関わる課題であることから、議会の活動を社会全体で支えるべきであるという意識の醸成に努めつつ、検討していくべきとしている。また、町村議会研究会報告書は「議員活動に係る休暇の取得等を理由とした使用者による不利益な取扱いを禁止することが考えられるが、企業側の負担にも配慮した検討が必要である」とし、32次地制調答申も事業主等の関係者の負担等の課題も含めた労働法制のあり方にも留意しながら検討の必要があるとする。
最近は、民間企業等の在職立候補制度を利用して選挙に立候補する事例も現れている。ただし、民間企業等の勤労者が在職しながら議員となる場合には、当該企業等と自治体との間に取引関係などがあるときは、地方自治法の請負禁止・除斥の適用やその趣旨との関係のほか、公正性や透明性の確保が問題となる可能性もある。