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2021.09.27 議会改革

第22回 議員の職務の公正性と兼業禁止・除斥

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(2)条例による請負禁止の拡張
 地方自治法の請負禁止は、議員本人を対象にして、当該自治体と上記のような請負関係に立つことを禁止するものであるが、自治体によっては政治倫理条例でその範囲を拡大するところもある。意思決定過程での議員の不当な影響力の行使の防止、あるいは住民から疑念を抱かれないようにするためには、地方自治法に定める請負関係に該当しなくても、議員が実質的に経営に関与している企業や近親者が経営している企業などについても、当該自治体との請負を制限する必要があるとの判断によるものだ。
 政治倫理条例の中で請負禁止の対象として追加的に定められているものとしては、議員が実質的に経営に関与している法人、議員の一定範囲の親族が役員をしている法人などがあり、該当する場合の措置として、請負の辞退を義務あるいは努力義務とするもの、請負等の契約がなされたときの報告義務、議員による辞退届の提出の義務ないし努力義務などが規定されている。議員が役員である法人やそれらの条例追加法人が指定管理者となることの禁止あるいはならないようにする努力義務、議員が当該自治体から補助を受ける団体の長の就任の禁止のほか、地区の区長・自治会長、民生委員、消防団長などとの兼職禁止を定めるところもあり、さらに、議員がその関係企業等に対し当該自治体のみならず当該自治体が2分の1以上出資している法人との請負契約等の辞退を求めるべきことを規定するものもある。
 なお、その場合に、実質的に経営に関与している法人というのは、それだけでは不明確であるため、議員が一定割合以上の出資をしている法人、議員が定期的な報酬あるいは一定額以上の報酬を受領している法人、議員が経営方針又は主要な取引に関与している法人などを列挙して定義をしている条例が少なくない。また、議員の親族企業に関する制限については、議員の実質的関与の抜け道防止のためのものか、それとも親族企業への利益誘導防止のためのものかでも異なりうるが、親族の範囲については、配偶者と2親等以内の親族としているところが比較的多いものの、3親等以内としたり、同居人を加えたりするところもある。しかしながら、経営方針や主要な取引への関与というのはなお不明確なところがあり、また、出資や報酬についても定め方によっては実質的な経営の関与に該当しない場合がそれなりに含まれる可能性があることは否定できない。親族関係についてもいろいろである。
 政治に携わる者にはその公的権限を私的利益や部分利益のために行使してはならないといった高度の廉潔性が求められること(政治倫理)からは、条例による拡張もある程度は認められると考えるべきだろうが、地方自治法92条の2との関係のほか、議員や親族の権利自由を制限することにもつながることから、その憲法適合性・法的合理性なども問題となりうる。
 この点、広島県府中市の議会議員政治倫理条例が、議員の2親等以内の親族が経営する企業は市の工事等の請負契約等を辞退しなければならず、当該議員は当該企業の辞退届を徴して提出するよう努めなければならない旨を定めていることが議員の活動の自由や親族企業の経済活動の自由を侵害するものだとしてその憲法適合性が争われた事件(国家賠償請求事件)で、広島高判平成23年10月28日判時2144号91頁が「当該議員が実質的に経営する企業か否かを問題にすることなく、形式的に議員の2親等親族が経営する企業であることを理由に経済活動の自由や議員活動の自由を制限する合理的な理由も必要性も認められない」として違憲と判断したのに対し、最判平成26年5月27日裁判集民247号1頁は、総合考慮の手法により、議員の職務執行の公正の確保とその公正さに対する市民の疑惑や不信を招くような行為の防止などの正当な目的を達成するための手段として必要かつ合理的な範囲内のものと判断した。議員が実質的に経営する企業であるのにその経営者を名目上2親等以内の親族とするなどして地方自治法92条の2の規制の潜脱が行われるおそれや当該親族が経営する企業に特別の便宜を図るなどして議員の職務執行の公正が害されるおそれがあること、努力義務にとどまり辞退届の提出まで義務付けるものではないこと、義務を履行しなかった場合の手続も議員の地位を失わせるなどの法的な効果や強制力を有するものではないことなどの事情を考慮するものであるが(11)、憲法21条1項に違反しないとした背景には、本件条例が議会の内部的自律権に基づく自主規制としての性格を有しており、このような議会の自律的な規制のあり方についてはその自主的な判断が尊重されるべきとの判断があったものと思われる。
 本件条例を違憲とまでいうかどうかは別としても、本件条例は市長選挙が絡んでの原告議員を狙い撃ちしたものであったとの指摘もあり(12)、また、府中市では未整備の議員の資産公開制度による対応や制度・規定についてより制限的でない形とする工夫の余地があったことなども考慮するならば、政治的・政策的にはなお議論のあるところではないかと思われる。
 なお、条例と地方自治法との関係については、広島高裁は、法律上、議員の兼業禁止規定を92条の2の範囲に限定する明文の規定はなく、議員の兼業禁止の範囲・態様を規制するのに地方の実情・地域の特性等を考慮して地方自治法を上回るあるいは異なる規制をすることが許されないとする理由は見いだせないとの判断を示し、最高裁もこの点を問題としていない。
 条例による兼業・兼職の禁止については、拡張傾向も見られるが、必要性・合理性や条文の表現について疑義のあるもの、その運用によっては法的な問題を生じる可能性のあるものなども散見されないではなく(13)、政治倫理の観点からの拡張はある程度認められうるとしても、慎重かつ十分な検討が求められているといえる。
 

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